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stage.5 現在

ガキンッ―――と、剣同士の激しくぶつかる音が硬質な室内へ反響する。 次々と飛んでくる黒い剣をかわす余裕はアスナになく、ただ剣で防ぐ事しかできないでいた。 重いのに速い。 受けるだけで必死なアスナに対して、ツキトの呼吸に乱れはなく顔には笑みまで浮かんでいる。 今までツキトが剣を扱っている所を見たことがないし、この力は尋常ではない。 恐らく、何かに―――この城の主である魔王に操られているのだ。 「おい、ツキト!」 アスナがいくら声を張り上げようが届く様子はなく、ツキトの剣は止まらない。 ―――どこだ。 魔王が近くにいるはずだと、辺りに気を取られる。 そのせいで、更に重くなったツキトの剣を受けきれず、アスナは後方へ吹き飛ばされた。 「―――ぐっ!」 「ほら、アスナ。反撃しないと死ぬよ。」 アスナが背中に負った衝撃で立ち上がれないでいると、ツキトがにこにこ笑いながら近づいてくる。 「目を、覚ませ、ツキト!」 咳き込みつつ掠れた声でアスナが叫ぶと、ピタリとツキトが足を止めた。 正気に戻ったかと思ったが、ツキトは困ったような顔で見返すと、再び前に足を出す。 「アスナ、僕は正気だよ。別に操られてるわけじゃない。」 「んな馬鹿な―――」 ブワッ―――と、広がる禍々しい気配に鳥肌が立った。感覚のすべてが圧倒的な黒に埋め尽くされる。 黒。 黒。 黒。 真っ白な姿のはずのツキトの気配が、真っ黒だった。少し気を抜けば、あまりに深い闇へ引き摺り込まれそうになる。 ―――頭が狂いそうだ。 怖くて怖くて堪らない。 近づいてくるツキトから逃げたくて仕方ない。しかし、アスナの体は指先すら動こうとせず、呼吸までもが困難だ。 こんなモノに勝てる気がしない。 だが、操られているツキトを一人逃げる事もできない。 とうとうツキトが目の前まで来て、座ったまま微動だにできないアスナを見下ろす。 それは、壮絶な美しさだった。 「ツキ―――」 「魔王は僕だよ。」 ―――ツキトが、魔王。 信じられない。 惚けたように見上げているアスナの米神へ、ツキトが黒い剣を突きつける。 間近で見ても、背筋が凍るほど精巧で深く艶やかな黒い剣だった。 禍々しくも美しい。 成る程、今のツキトとそっくりだった。

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