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stage.6 過去
あれは、中級の魔物とも危なげなく戦えるようにまでなった頃だ。星が次々と落ちる夜だったと記憶している。アスナが窓際で寛いでいると、ツキトが提案してきたのだ。
魔術を覚えたらどうか―――と。
「魔術を?」
「そう。アスナも使えたら便利だよな?」
ツキトが向かいに座り、カフェラテをグラスへ注ぐ。風呂上がりの水分補給らしいが、喉が乾いている時にチョイス飲み物ではない。喉に絡み付く甘さを想像して、アスナは苦い顔になった。
「練習してみたらどう?」
「別にいい。」
アスナが苦い顔のまま断ると、ツキトがカフェラテを飲み干したグラスを置いて身を乗り出してくる。
「高度なものじゃなくていいからさ。ちょっとしたキズを治すくらい出来てもいいと思うわけ。ほら、もしも、僕がいない時に怪我したらどうするのさ。」
アスナだって、魔術を練習して来なかったわけではないのだ。しかし、箸にも棒にもかからなかった。自分は魔法の才能がないのだと早々に諦めたものを、こうして掘り起こされるのは気分が良くはない。
アスナの機嫌が降下していると分かっているだろうに、ツキトの態度に変化はない。
「ツキトがいない、なんて事、今まで無かっただろ。朝から晩まで、ずっといるじゃねえか。」
「いや、これからあるかもしれないじゃないか。例えば―――、喧嘩したり?」
自分でも説得力がないと思ったのか、ツキトの目が泳ぐ。
「いつも喧嘩してるし、してても治すだろ、おまえ。」
「そりゃ治すけどね。治せない事があるかもしれないじゃない。何があるか分からないんだから、ちょっとくらい出来た方がいいって。」
余程、アスナが魔法を使えるようにさせたいらしく、ツキトに諦める様子はない。もう眠くなってきたし、相手をするのが面倒になってきた。
アスナが欠伸をすると、ツキトがにやんと笑って指を差してくる。
「アスナ、自信ないから嫌がってるんだろ。だめ~、やるの~。逃げない、逃げない。」
バカにするようにツキトから言われて、思わずムッとなる。
「逃げてねえ。」
「じゃあ、練習しよ。決まり。」
パン―――と、両手を打ってツキトが立ち上がる。
「おいっ、しねえって!」
慌てて拒否してもツキトは聞く耳持たず、次の日から本当に魔術の練習をするはめになったのだ。
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