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第2話 菓子パンとカップ麺

夏の扉を叩くのは ー菓子パンとカップ麺ー 五月初め それ以降、学校で会うたびに話しかけてくる人懐こい金髪に、生徒たちも物珍しそうに寄ってくるものだから、俺たちの周りはいつも賑やかで、授業か始まる時間に人払いをするのが俺の日課になった。 「 教頭先生、仲良くなったんですね 」 「 仕方ないだろ、俺を見つけると遠くから走ってくるんだから……邪険にあしらうわけにいかないしな、生徒の親だし 」 「 ふふ、ほだされちゃってますね、 高光さん、面白いから 」 三枝先生や事務の女の子にまでそう言われて、余計に邪険にできなくなっている。 昼の弁当を食べる時さえ、俺は金髪に捕まって何故だか外で一緒に弁当をつついている。 「 お前、そんか貧相な昼飯で持つのか?」 「 え?菓子パンうまいじゃん、ここのはジャムが端まで入ってんだよ!食べる? 」 「 それに毎回カップ麺だぞ、健康に悪いだろう 」 「 仕方ないじゃん、俺倹約中なんだよね 」 「 あの現場の仕事は公共の仕事だからきちんと給料支払われてんだろ?なにに、無駄遣いしてるんだ 」 「 無駄遣いっていう、ひでーの!」 豪快に笑いながら結局、昼飯を倹約しなきゃならないほどの金の使い道を高光が俺に言うことはなかった。 連休明けの月曜日、 突然入った来客で学校を出るのが夜8時頃になった。 今日まで現場は休みかと、来なかった金髪に薄紫のニッカポッカを思い出しながら駐車場に向かうと建物の裏手に学生服の姿がある。部活の子か?と近寄って見ると、小さめな体躯の生徒とどう見てもあまり素行の良くは見えない背の高い男子生徒がいた。 「 何をしてるんだ?」 と声をかけると、体躯の良い方が、 「 いや、なんでもないっす! じゃあな 」 と小柄な生徒の肩を軽く叩いて俺の横を通り過ぎていった。 「 どうしたんだ?大丈夫か?」 嫌な雰囲気に良くない予想を立てそう尋ねると、 小柄な生徒は俺を見上げてキリッとした態度で、 「 なんでもありません 」 と答える。気丈な様子にこの先をどうしたもんかと逡巡していると、 「 僕、失礼します 」 と俺を避けるように歩き出した。 この顔はどこかで。 「 ちょっと待って、 1年か?何組?名前は? 」 と更に尋ねると、流石にこれには答えなきゃならないと悟ったのか、 後ろを振り返り答えた。 「 4組の藤間です 」 「 藤間、、光君?」 「 はい 」 短く頷くと急ぎ足で立ち去った。 1年だろ?片方は確か3年だったな、明日3年の主任に確認してみるか、と思いながら車に乗り込む。 確か今年の3年の主任教諭は三枝先生だったな、と思い当たるとウキウキする気持ち。面倒な話になるなら尚更夜食事でもしながら。 完全に取らぬ狸の皮算用を立てる自分に笑った。 その後、これを見逃した事で今度は己の不甲斐なさに笑うことになるとは……

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