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第3話 事件 五月初め
夏の扉を叩くのは
ー事件ー 五月初め
次の日、ある事件が校内で起きたために俺は昨日の三年と藤間光のことを三枝先生に聞くのをすっかり忘れていた。
その事件というのは、何者かが
職員室のガラスを割ってある教員の机を荒らしたということだった。
朝早く警備員に見つけられたその事件は警察を呼び現場検証が行われている。
ガラスは綺麗にクレセントの部分がカットされ、割った時には音もしなかっただろうということだった。
しかし警備システムが入っているのになぜ鳴らなかった?
その疑問はやってきた刑事にあっさりと解明された。
昼間予めガラスを切ってクレセントを外し窓を開き忍び込んだところで窓を閉める。そして職員室が空になったところで見回りの警備員の目を盗んで物色をし、朝のなにかのタイミングで外に出たんだろうという事だった。
校内のシステムは古くて、出入り口と窓にしか警報装置がほどこされていない。良く知ってますね、という刑事の感想を聞きながら、何を取られたのだろうと聞くと、その教員の個人データーの入った媒体が盗まれた、らしいということ。
その教員は保健体育の40になるベテランの男性教諭で、やられたと刑事の前で口走ったらしいが、尋ねてもなんのデータかは口を閉ざしているのでわからないということだった。
おまけに盗難届も出さないと言っていると聞いて、俺からも再度質問してみることにした。
会議室に入って二人で向かい合わせに座ると、やけに落ち着きがないその様子に何か嫌な胸騒ぎがする。
「 先生、盗られたのは大切なデータだったんですか?」
と聞くと、汗をかきながら
「 何も、からです、空なんです!」
と明らかに挙動不審になった。とにかく、データーは空だからなんの問題もないと言い張るのでそれ以上追及もできずに話し合いは終わった。
夕方、やっと操作関係者が引き上げると、今日一日ざわついていた生徒たちも帰宅する時間になっていた。
クラブ活動以外の生徒が帰宅する中、俺は今日一日昼飯も食べていないことと、高光に会っていないことに気づく。今日の昼飯はどうしてんだろう?警察が入ってるのはわかるはずだから工事現場の方で食べたのかと思いながら、足は自然と改修工事中の校舎の方に向かった。
足場で固められた入り口から中に入ると、夕陽が落ち辺りに積まれている鉄材が紅く照らされる中、金色に染まったのは細く尖った身体を精一杯しならせた後ろ姿。
そして、下着以外何も身につけていない男の前にもう一つ人影が見えた。
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