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第4話 諍い 五月初め
夏の扉を叩くのは 4
ー 諍い ー 五月初め
あっと思った瞬間に柱の陰に俺は身を隠した。様子がよく分からない。二人きりで何をしてるんだ?
耳を澄ませば低い声の話し声が聞こえてきた。
「 見ろよ、全部確かめてみろ 」
「 ふざけた真似しやがる、この淫売が、
どうせもうどっかに犬みたいに隠したんだろ 」
「 ふざけてるのはあんたの方だ。俺に隠すような暇があるはずないだろう 」
「 ふんわかるもんか。ついでに下も脱いどけ確かめてやるから。そうだ先にロッカーの鍵も出せ 」
少し背中を丸めて下着を脱ぐとそのまま相手の身体になにかを放り投げる。
声をかけようと柱の陰から出ると、男が現場事務所の方に歩いていくのが見えた。
そのまま丸裸で突っ立っている高光に、
「 おい 」
と声をかけるわと、弾かれてようにこちらを振り返った。若い男の身体はうっすらと綺麗に肉が付き、腰高の下半身はしっかりとした筋肉の見える太ももから長い脛を経て足先まで真っ直ぐに伸びている。下腹の淡い翳りに目がいくと、流石に高光も真っ裸の自分に我に帰ったのか、その節だった両手で己の性器を覆った。
そのまま、俺を凝視してる高光。口火を切るのは俺の方だな。
「 大丈夫か?何か揉め事か?」
頭を横に振って動作は否定しているのに眼差しはそうは言っていない。伊達に教師をしてるわけじゃない俺は、言行に齟齬がある生徒には慣れている。
繰り返し同じ内容のセリフを言いながら地面に脱ぎ捨てられていた作業服を拾って渡すと、受け取らずに下を向いてしまう。
「 着なさい、そんな状態じゃまともな話もできないから 」
思わず生徒を諭すような言葉が出ると、
「 あんたには関係ないことだから……」
とやっと吐息のように言葉を発した。
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