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第5話 何故 五月初め
夏の扉を叩くのは 5
ー なぜ ー 五月初め
なかなか着ようとしない高光の肩に作業服の上を掛ける。
俯いている顔を上げさせようと頤に指をかけると、後ろから不躾な調子の声がかかった。
「 そいつがおまえの相手か?」
さっきの男が戻って来たようだった。
「 どういう意味だ?」
薄暗がりの中で俺の顔をじっと見た男が投げ捨てるように言葉を続ける。
「 関係ないなら向こうへ行きな。それともそいつと関係あるならあんたに代わりに 」
「 この人は関係ない!」
俺の顔を見ても誰だかわからないこの男はこの現場の管理者サイドの人間ではないな。そう判断した俺はその男に簡潔に伝える。
「 私はこの学校を管理する立場の人間だが、君の所属する会社と氏名、立場を確認したい 」
ギョッとした男は、
「 いや、別に俺は雇われてるだけで 」
と言うなり逃げるように現場から立ち去った。
その姿が完全に見えなくなるのを確認してから、
「 兎に角服を着て、話を聞きたい。
さっきあの男に言ったのは、冗談じゃないぞ。
きちんと説明してもらおうか 」
そう言うと高光は大人しく服を身につけた。
「 話したくない……」
「 ダメだ 」
「 あんたに嫌われたくない 」
それは話さないとわからないだろうと言いかけた俺は咄嗟に違う言葉を選んでいた。
「 まあ、飯でも食おうか、腹が減ったよ 」
顔を上げられない高光の腕を引き歩き出す。
駐車場に辿り着くまで、幸い誰にも会うことはなかった。
いや、誰かに会ったとしても、
なぜかこの腕は離してはいけないと思った。
理由はわかっている。
高光の目に涙はないのに、
声は泣いていたから。
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