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第7話 認知と蟹
夏の扉を叩くのは 7
ー 認知と蟹 ー
メニューをみて目を丸くした高光のオーダーを俺はさっさと決めると、
世間話から始めることにした。さっきの話を振ってもすぐには話さないだろうと踏んでのこと。
俺と高光がする世間話と言えば、藤間光の事しかない。
一応調査票に書いてあることは把握しているが、先日の上級生との場面が気になる。
「 君は藤間君の父親だと言ったけど、役所の書類で彼の父親は藤間さんになっているんだが 」
「 そうだよ、俺まだ16歳だったから認知したけど戸籍には入ってない。彼女が再婚したから光は藤間の家の子になってる 」
なんでこうも重い話をあっさり喋るかな高光は。
「 16の時の子か 」
色々な家の事情を人よりはよく知っている俺でも少し驚く。
「 認知はしたんだ 」
「 うん、そりゃやることやってできた子だもの 」
全く頭が痛くなるようなことを言うやつだ。
「 光君はその事は?」
「 もちろん知ってる、光に仕送りもしてるのも知ってるからヒロシ先生もあんな風に俺に話すんじゃん 」
「 三枝君をヒロシ呼びか……」
俺がちょっとむすっとしながらそう言うと、
「 あれ?妬いた?ヒロシ先生って綺麗だよな、男なのに惚れちゃいそう 」
なんだって!
いや、こんな事を話してるんじゃなかった。気を取り直してその先の話を続ける。
「 ところで光君は今の学校に知り合いの上級生がいたのか?」
「 うーん……どうかな?なんで?」
あまり大げさにならないようにこの間の話をすると、
「 あ、あいつかな……時々光に話しかける生徒
あいつがどうかしたの?」
急に高光の声のトーンが下がった。
「 いや、校内のことはなんでも首を突っ込まないといけない立場だからな、特に新入生の事は少し気をつけるのが癖になってるんだ 」
黙って俺の事を伺うようにみる高光に、あまり彼は刺激せずにこの先は三枝君に聞くかと思いながら、さっきの話を振ってみた。
「 それで、
どういうシチュエーションだと工事現場でまっぱになるんだ?」
「 え⁉︎」
気まずそうな顔が困ったような泣き顔になる。
その時うまい具合に蟹が運ばれてきた。
呆然とそれが並べられるのを見ている高光。
「 こ、これ、なに……」
「こちらタラバ蟹とズワイ蟹の盛り合わせです。蟹酢はこちらに、
フィンガーボールお使いください 」
スマートにサービングしながらホールスタッフが去ると、
恐る恐る蟹の脚を持ち上げる高光に俺は笑いをこらえるのが大変だった。
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