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第10話 獣
夏の扉を叩くのは 10
ー 獣 ー
そう言えばあいつ風呂から出てこないな、気がついたら高光を風呂場に案内してから、1時間以上経っている。
まさか、
風呂で寝ちまったんじゃないだろうなと思いつつ風呂場の扉から声をかけても返事がない。
「 開けるぞ 」
俺の家は風呂場といっても室内の浴槽とはまた別にジャグジー風呂がオープンウインドゥで反外になるように広く設計されていて、シャワールームと簡単なジムまで併設されている。
まぁ、贅沢と言ったら贅沢なんだが。
脱衣所の曇りガラスを開けると風呂場にには全く人影がない。
「 おい、高光、どこだ?」
と声をかけると、ジャグジー風呂の外側にあるデッキから返事が返ってきた。
「 すげぇ、俺、こんな風呂初めて 」
声のする方に近づくと、
そこには何も、股間にタオルさえもおかず。
全身をデッキで仰向けになり、裸体をさらけ出している高光がいた。
若い肉体はただでさえ張りがあり贅肉は削がれていて美しいのに、更にそこには僅かな水滴と、ジャグジーに垂らしてあったアロマの香りが肌にが纏わり付いて……
「 そうか、ジャグジーに湯を張ったままだったな、気持ち良かったか?」
そんな高光を俺は正視できずに慌てて声高に当たり障りのない話しをする。
「 うん、気持ちいい……このままここで寝ちゃいたいくらいだ 。
こんな広い風呂なら一緒に入れば良かったじゃん 」
俺の方に向き、片肘をついて横たわる姿勢になる。
長く延びたしなやかな肢体。
体位を変えた男の下半身に思わず目をやれば、そこは濡れそぼった茶色い繁みと、萎えていても重さのある実が少し桃色帯びているのが見えた。その下に僅かに顔を出す双つの袋。
吸い込まれるようにその男の徴からY字を辿り、しまった下腹、筋肉の重なる腹部分から僅かな乳首を両側につけている厚そうな胸まで勝手に眼は這っていく。
獣だ……それも至極しなやかな動きをして、透き通るような瞳で俺を観察してる。
「 先生さ、」
「 え?」
先生って誰だ?
「 あんた、ゲイなの?」
目の前に横たわる獣が口にした単語。
これは、罠、だな。
夜半の風は階上のデッキですっかり腰を落ち着けてゆったりと沈降する。
そして、
ジャグジーから匂い立つ濃厚なベルガモットの香りと若い雄の匂いに、
俺は完全に酔っていた。
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