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第12話 朝のファミレス

夏の扉を叩くのは 12 ー 朝のファミレス ー 一睡もできずに翌朝を迎え、とにかく学校へ行こうと車を走らす。なぜか持った鍵はオレの一番の車。正真正銘のランチアストラトス。何年も前にイギリスで見つけて船で運んだ究極の名車だ。これなら、高光きっと乗りたいって…… バカじゃないか。あんなことをして、まだ高光が俺に話しかけてくると思ってる。 太陽が昇りかけ、たなびく厚めの雲がオレンジと黄色のグラデーションを強く色付ける。 ふと時計を見るとまだ5時前だった。今は学校のセキュリティーも厳しくなり変な時間に出入りは控えなきゃならないことを思い出した俺は落ち着くために24時間やっているファミレスに立ち寄った。 コーヒーを頼んで何気なくガラス窓の方に目をやると、そこにはうちの教師の姿がある。そして前に座っているのは、驚くことにうちの生徒だった。 え?藤間か?藤間光が保健体育教員の林となぜここにいる? それもこんな時間に…… 声をかけようかと迷った末に昨日の事件と高光の知り合いだと言うあの男のことが頭をよぎる。 ひょっとして繋がってんのか?あの平田ってやつが脅していることと、今のこのおかしな組み合わせが。 ウエイトレスに断って彼らの座席の死角からそっと背凭れが高くて俺の姿が見えない席に移動する。 低い声でボソボソ答える林先生と声変わりした直後の掠れた声の少年の声が、間を置きながら聞こえてくる。 『 画像、隠れて、 許してくれ 』 『 ド……カナ』 『 データ、、返して もらえないか 』 『 ジョウ…… 』 『 え?そんなに、持ってない 』 ところどころ大きくなる林先生の声しか聞くことはできないが、これは、脅されてるのか?生徒に…… 暫く藤間君が何か呟くと、 『 そんな!』 と激昂した林先生の声がして、藤間君が席を立った。 声をかける間も無くさっさと店から出て行く藤間君。残された林先生。俺は迷わず彼に声をかけた。 「 おはようございます、林先生 」 俺の声に驚いて顔を上げる林先生の赤かった顔は一瞬で蒼ざめた。 さぁ、これからどこまで口を割るかだな。俺は一歩も引かないと言う気持ちで彼の前に座る。 机に乗せた手まで酷く震えているのがわかったので暫し彼を眺めるだけの時間を持った。 こんな俺でも教員を扱うことはプロだからな。林先生の口を割るくらいは簡単なことだと思っていた。 十分ほど無言で待った末に声をかける。 「 藤間君とはなんで?こんな朝早くから二人で ?」 「 じ、実は、貸したものを返してもらうために。 学校では担任でもないから声かけづらいので、朝からここでと 」 「 貸したもの?個人的にですか?」 「 いや、あ、そうです。個人的に……」 「 生徒に個人的に貸すものって、なんでしょうね?」 すっかり口を閉ざしてしまった林先生に俺は違う方から爆弾を投げてみようと思ったが 、ファミレスで朝からする話じゃない。 彼を促して学校に向かう。この車中ではまだ事件といってもさほどではないだろうと、この神経の以外に細そうな教員を見ていたが、 まさかこんなとんでもないことをしでかしてるとは思ってもいなかった。

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