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第18話 あなたの周りの大事件 5

夏の扉を叩くのは 18 ー あなたの周りの大事件 5 ー 街灯が照らす 高光とランチアストラトス。 薄暗い中に浮かび上がるメタリックを装った濃紺の車体に薄紫の作業服は少し猫背気味に立ち上がった。 立ち上がってもやはりその姿はあの車の横にあるものとしては異物に見える。 何歩か離れた場所で高光の反応を待つ卑怯ぶりに自分で嫌気がさすが、もう昨日の横暴で独りよがりな暴力に土下座でもして許してもらうかとのヘタレな気持ちも湧いてくる。 高光から流れてくる感情は捕らえどころなく、そこに構わずにはいられない自分もいる。それが何かと言われれば、昨夜の暴力行為が理由の一端を示しているような気もする。 征服したいのか……屈服させたいのか。 普段の俺が隠している性癖なんだろうか。 高光が首を傾げて俺を見ている。 どちらともなく発した言葉は 俺が 「 昨日は 」 で 高光は 「 今日さ 」 だった。 言葉を途切らした俺に高光の言葉が被る。 「 今日さ、なんかあった? 今朝きたら外が騒がしくて、俺ら工事関係者に聞きまわってる記者みたいなのがいたし。 それにさっき、光があんたと一緒にどっかの部屋に入ってった。 生徒たちもやけに興奮してるし、なんかあったのか? 」 長い一日は未だ終わらなかったか。 俺は高光の問いには答えずに、車のロックを外した。 高光に謝ろうと口を開いた俺に高光は近づくとのしかかるようにして言葉を発した。 「 光になんかあった? あいつがなんかしたのか? 教えてくれ! 」 必死な形相は昨晩俺のうちで見せた顔とは180度違う人間の顔だった。 高光の昂ぶった声に、 「 どうかしましたか?」 警備員が二人で寄ってくる。 「 あぁ、なんでもありませんよ。今から車に乗るところです 」 と答えた俺は高光の背を押して開けたドアから強引に車へ押し込んだ。 昨日と同じシチュエーションなのに態度はまるで違う。 抵抗も遠慮もなくシートに座った高光の横顔をそっと伺うと、見たこともない真剣な眼差しでフロントガラスの先を見つめていた。 普段は見せないこの顔は血を分けた息子のためか…… こんな顔もできるのか。 させてみたい? まさかな。 吹き上がるほど軽快で吠える獣のようなエンジン音を立てるストラトス。 いつもはこの音を聴くと高揚する気分も下がるのは、隣の男のせいだ。

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