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第19話 あなたの周りの大事件 6

夏の扉を叩くのは 19 ー あなたの周りの大事件 6 ー パーキングに車を停め、 遅くまで営業している焼肉屋へ連れて行く。 夜の住人が多い界隈の焼肉屋は出入り口を最近やっと木建てからサッシにしたようなボロボロの外観。 実は屠殺場から直接入手する特殊なルートを持つ店だと知っているのは、それなりの人生のお陰だけどな。 中に入ると黒いTシャツを来た親父と若いのが二人。 「 いらっしゃい!」 とニコリともせずに掛け声をかけた。 こういう店なら高光も気を臆せず腹を満たせるだろう。 横を見ると、若い方の一人を見て目が点になっていた。 うん?と思いながらも煤けた壁の前の席に座るように言うと、黙ってそれに従った。 「 肉、なんでも大丈夫か?」 「 うん 」 と頷く様子がとてもアラサーには見えない。 さっきまでのキリッとした容貌はどこに行った? 単純だと思っていたが付き合うごとに掴み所の難しいやつだな。 「 飲み物は。ウーロン茶二つ。それと……」 俺があらかた注文を終えると、若いのがコンロに火をつける。高光身体に後数センチの距離で近づいたその男が低い声で何かを高光に呟いた。店の中には真夜中近くだというのに赤ん坊連れまでいる盛況さで俺にはそこ呟きが聞こえなかったが、明らかに高光の態度が変わったのがわかった。 少しつり上がった眼差しを緩ませて優しげな表情を見せる高光。俺は胸の奥にドロっとした酸っぱいものが溜まった。 「 話……光の 」 「 食ってからにしよう、腹減ってるだろ? 俺もだ 」 本当はこんな店、人の話を聞いてるやつなんていない。食べながら話しても良かったがどうやら高光に意地悪をしたくなったみたいだ。明らかに話を乞う高光を前に俺は大きく切った厚いタンを網の上に乗せる。 その大きさに目を見張った高光。 焼けたそばから 「 いけるだろ 」 と箸で皿に盛ってやる。 「 ありがとう 」 と言いながら肉を咀嚼し噛み切る口唇……薄いが大きめの口元からタレの色を絡めた舌か僅かに覗く、その隙間から目が離せない。 こいつ本当に食わせがいがある。 誰にも抱いたことのない気持ち、抱いたことがなかった故に何故こんなに構いたくなるのかわからない気持ちに俺は頭をひねった。 考えても仕方ない。 「 ご飯二つ、頼む 」 店の若い奴に声をかけた。

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