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第22話 おにぎり
夏の扉を叩くのは 22
ー おにぎり ー
翌朝早く、高光をアパートまで送って行く途中朝飯のおにぎりを買いにコンビニに立ち寄った。
いい歳をした二人の男が早朝からコンビニでおにぎりを物色する気恥ずかしさ。それでも高光に無言のまま他人のふりをされたのは少し堪える。
いつもなら朗らかなやつなのに。可愛げなくしたのは多分俺のせいだな。
「 おいおい、そんなに食うのか?」
おにぎりを七つ抱えた高光に声をかけるが、俺の方をチラ見した以外なんのリアクションもしてこない。多少ムッとするその態度に、
「 いいから寄こせ、俺が払う 」
強引におにぎりをカゴに放り込むと合計十一個のおにぎりを会計する。眠そうな店員がそれでもおにぎりの量をしっかり数えてる。
「 あんただって、その歳で四つも食うんじゃん おまけに高い手巻きのすじこ食うのかよ 」
小声で高光が呟いた。
お茶を二つ足しながらそんな言葉にホッとする。
ここでいいという高光に強引に案内させ、大通りから三本外れた通り沿いのアパートの前に車をつけると、自分のアパートを見上げた高光が驚いたように声をあげた。
「 あ!え?」
その声に顔を上げた俺の目にも廊下に立っている学生服が見える。
なんだ?と高光に目をやると
「 光……」
と言うなり高光が車から飛び出した。
光?藤間か?なんでここに?
めんどくさそうに古いアパートの錆びた手すりにもたれかかる少年は間違いなく藤間光だった。
興奮を隠せない高光とこまっしゃくれた様な態度を隠しもしない藤間が対面している所に俺が出て行くと、藤間の目が大きく見開かれた。
「 なんで、教頭先生が一緒なの?」
その言葉が一向に耳に入らなかった様子の高光は懸命に話しかける。
「 どうしたんだ?いつからいるの。家で何かあった?
飯食った?」
その問いに一言も答えずに藤間はただ俺の返答を待っていた。
「 うん、まぁな、」
言葉を選ばなきゃと慎重に話し始めた俺を遮って、
「 俺が飯食わしてって頼んだの、昨夜さ、ここんとこカップ麺とパンばっかりでさ 」
こいつ誤解されたくないのは誰にだ?
闇雲にペラペラと喋りだす高光に藤間は胡乱げな眼差しを向ける。
「 朝早いしとにかく中入ろう 」
とアパートの鍵を開けながら高光が藤間に入るように扉を大きく開けた。
暗い朝の陽射しが全く入らない西側の部屋は昨日の日中の暑さを溜め込んでいるようにムッとした空気を放っている。
「 光、腹減ってんだろ、そこに座って 」
と一部屋しかない部屋に俺たちを案内する。
卓袱台すら無い部屋は勿論座布団すら無い。
唯一大きな音を立てる小さな冷蔵庫の脇に布団らしいものが丸めてあるだけの薄暗い六畳間に、
高光のこれまでの全てがはまっているようだった。
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