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第23話 痛い、ピエロ
夏の扉を叩くのは 23
ー 痛い、ピエロ ー
藤間光はこの部屋に何度も来てるような自然な態度であたかもそこが定位置のように丸まった布団の前にすっと座る。
高光が冷蔵庫の中から麦茶のペットボトルを出すと、
「 光、麦茶の方がいいだろう?」
と目の前に置いてやる動作も酷く普通だ。
「 よく来るのか?」
と聞くと藤間は頷く。
高光がコンビニの袋を畳の上に敷いてその上に十一個のお握りを山にする。
「 先生は三個でいいだろ?俺も五個でいいから、光は三個食べな!」
勝手に仕切って勝手に食べ始める高光に習って大人しく藤間もおにぎりを手に取る。
妙なところで意気投合してるんだな、さすが血の繋がりと感心しながら俺もおにぎりに手を伸ばした。
三個目のおにぎりを剥きながら高光が藤間に、
「 それで、どうした?なんで俺を待ってた?」
と聞くと、
「 昨夜から友達の家に行ってたんだけど、ここには今朝来た 」
「 お金?」
「 うん、足りないから 」
「 あーわかった。今はあんまり持ってないけど会社行けば前借りできるから
昼じゃダメ?」
「 大丈夫だよ、夕方でも」
「 おい!ちょっと待って。
藤間は高光に金をもらいに来たのか?」
「 そうだよ 」
二人してこっちを何を今更っと言う目で見やる。
俺はまた頭を盛大に抱えたくなった。
「 いくつか質問するぞ 」
おにぎりを食べながらコクコクと頷く二人。こんなとこまでなんだか似ている。
「 藤間は昨晩は友達の家に泊まってたんだな 」
頷く。
嬉しそうな顔でその仕草をじっと見る高光。痛い奴だな……
でも、そんな横顔に俺の下腹が疼く。
ゴホッと咳払いしてその気を逃すと、
「 それは学校の友達?両親には連絡した?」
「 学校じゃない塾の、連絡はしたよ 」
「 ご両親から私には連絡がこないんだが、君は連絡が取れているのか?」
「 ううん、ラインに流してる……そういえば返事 」
ポケットに手を入れてスマフォを見る藤間。
「 あ、返事きてる 」
「 昨日学校が終わってから家には帰らなかったのか?」
「 帰ったよ、誰もいない家になら。
塾に直ぐに行ったから30分位なら居た 」
「 それで、ご両親、お母さんとは会ってないの?」
「 うん、塾に入ったら保護者には連絡行くから、僕が何処に居るのかは大体知ってると思う 」
「 それで朝まで会わなくても心配の連絡はないのか?」
「 来てるよ、ホラ 」
とラインの画面を見せるあっけらかんとした態度と今朝の頑ななまでに黙りこくった態度がどうも結びつかない。
「 じゃあ、手数をかけるがその連絡網で学校……いや私に今日連絡くださいと伝えてくれないか 」
全くどんな親なんだろうかと思いながらアカウントと電話ナンバーを藤間に送る。
憮然とした俺とは正反対に相変わらず麦茶を足したり、光の剥いたセロファンのゴミを片付けたりと細かな世話を焼く高光がなんか可哀想なピエロのように見えてきた。いかん、いかん、またゴホッと咳払い。
「 それで、次は金の話だが 」
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