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第28話 良いこと悪いことは表裏一体にやってくる
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ー 良いこと悪いことは表裏一体にやってくる ー
慇懃無礼に一歩も引かなさそうな刑事に自分と村田主任も同席したい旨を伝えると、
仕方がないとばかりに一瞬目を蹙めたが、先日の職員室への侵入事件も承知だったらしく年嵩の刑事の方が鷹揚に頷いた。
廊下に出て三枝先生に職員室での簡単な説明をお願いする。開けた扉の陰で俺の手を握った彼に驚いて顔を挙げた俺に、
「 朝から大変ですね、事務の人にコーヒー持って来てもらいます。菅山先生頑張って 」
とその細く長い指を絡ませて俺の手をもう一回グッと一握りする。
そのしっとりと冷たい掌に、
一気に動悸がして頭に血が上った俺はそれでも握られた右手をしっかりと握り返した。
指が一本ずつ互いに交差していたら恋人繋ぎだったのにな……残念だ。
思わぬ出来事に最高に気を良くして応接室に戻ると、相変わらず蒼白な林先生がソファに座ったまますっかり萎れている。
「 それで、林教員に聞きたいこととは?」
俺が口火を切ると、
「 それでは、林さん 」
と、刑事の口から出た質問は殆ど確信に満ちた言葉で林先生は頷くしかできなかった。刑事の話術は流石だな……
あの平田が恐喝事件で捕まったこと。所持していたスマフォの録音機能の中身に林教員を恐喝している内容のものがあった。
これはあなた本人で間違いないかと最後に聞かれてうな垂れたまま頷く林先生。
その後調書にご協力願いたい、被害届を出すならその手続きをと言い終えた。
刑事は出されたコーヒーに手をつけず、先日の職員室への不法侵入に関してももう一度担当刑事が来るだろう、盗難届は出されてないですね、という念押しと共に挨拶をして応接室を後にした。
俺は林先生の言葉から恐喝と盗難、この二つが関連しているんだろうと疑っている。
そして最も肝心なのはあの侵入と盗難に生徒が関わっていないという保証がないことだ。
これは始末書ぐらいじゃすまないな……
校長の留守の間にとんだことになった学校、上手くこの危機が回避できるのか甚だ不安この上ない。
殆ど部外者の生徒たちには火の粉がかからないようにしないと、と帰る刑事をガラス窓越しに追っていると、なぜか第二校舎の改修工事現場の方へ回っていくのが見えた。
平田の事を聞き込みに行ったのか?
慌てて校舎を出ると刑事の前に立っているのは、
薄紫のニッカポッカを履いた高光だった。
「 あなたの名前は?」
「 高光、高光 凌 」
「 高光さんは平田利成さんの事をご存知ですか?」
近づく俺に高光の応える声が聞こえた。
「 知らない…… 」
「 ほお、ご存じない。そうですか、それは確かですか?」
「 知らない 」
刑事はお互いに顔を見交わすと、
「 高光凌さん、少しお聴きしたいことがあるので交番までご同行願えませんか?」
え?高光、連行されるのか?
焦った俺は思わず高光と刑事との間に割り込もうとしたその時に、
「 どうかしましたか?うちのもんが何かご迷惑でも 」
赤黒く大きな身体をしたタコ頭の親父が俺の前に立ちはだかった。
「 あなたは?」
「 この現場の監督の安堂(やすむろ)ですが、そこの若いもんはうちの社員です。なんかあったんですか? 」
そうだった、この男はこの工事の現場監督、安堂さんだった。
そして俺は安室さんの顔を見て明らかに破顔した高光になぜかイラついた。
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