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第29話 男のメンツやらプライドやら

夏の扉を叩くのは 29 ー 男のメンツやらプライドやら ー しばらく低い声で刑事と話していた安堂さんが頷くと、刑事の方もこれぞ義務だからと言わんばかりの態度で踵を返す。 安堂さんが高光の肩を叩いて少し言葉を交わす光景を見ながら校舎の方に足を返した。 高光の安堂さんへの態度に落ち着いていられない自分にイラつきながら職員室の教頭デスクに戻ると、スマフォに着信があった。登録されていないナンバーだ。応答すると掠れごえの中年の男の声が応えた。 「 もしもし、私藤間と申します 」 「 藤間さん。御連絡お待ちしておりました。教頭の菅山です 」 「この度は息子、光が何かご迷惑をおかけしたようで、大変申し訳ありません。今からでしたら午前中身体を空けることができましたのでそちらに伺う事が出来るのですが 」 「 そうですか、それではお待ちしております。来校されたら正門から入って左側に進むと来客用玄関がありますのでそこで事務所にいるものに菅山をと伝えてください。 よろしくお願いします 」 了解の応えを得て電話を切る。 さて、藤間光の父親はどのくらい把握しているのか……1年4組の担任に同席してもらうか、授業はどうだったかな。1年の主任にも前もって話はしておくか。 それから藤間氏が来校する小一時間後まではその調整に没頭することになった。 「 教頭先生、藤間さんがお見えになりました 」 事務所の斎藤さんの呼び声で、1年4組の担任を伴って応接室に入る。 そこに座っていたのは、少し白髪が混じり始めた頭をきっちりと七三に分け、銀縁の眼鏡をかけた痩せて長身の如何にも固い仕事という風情の男性だった。 蒸し蒸しする日なのにきっちりとスーツの上着を着込んで暗いグレーのドットのネクタイの結び目は下げてもいない。仕事の場をそのままここに持ち込もうとする姿勢。 「 お忙しいところありがとうございます 」 「 いえご連絡頂いていたのに、遅くなり申し訳ありませんでした 」 「 こちらも急だったのにお越しいただきまして今日はありがとうございます 」 と慇懃無礼に言いながらお互いを値踏みし観察し合う。 口火を切るのは勿論俺の方だが、なぜか負けたくないと思う気持ち。 前に座る相手からの非友好的な雰囲気が部屋の空気を覆う。 隣に座る4組の担任にはもう使い物にならないほど呆けてる。 教育の場なのに支配するのは、男同士のメンツとプライドだったりする。 俺たち男は本当にしょうのない生き物だ。 そして、繰り出された言葉は相手に先制をかけ主導権を握る言葉だ。 「 藤間さん、光君最近のご家庭での様子はいかがですか?何か変わったこととかは?」 答えられるのか?おい。

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