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第30話 腹の探り合い

ー 腹の探り合い ー 暫く俺の顔を眺めていた藤間さんは徐に口を開くと、 「 私は出張で家を留守にする事も多いので殆どの事は妻が配慮してくれています。光の事は妻からは高校生活も順調で問題ないように聞いていますし、 光からは頻繁にたわいもない事ですが連絡を寄越します。その内容でも光自体に問題が生じてるようには見えませんが 」 「 そうですか。 今回学校で事件が起きた事はお聞き及びではないですか?」 「 光からですか?」 「 はい、光君から、或いはお母様の方からでも 」 「 はぁ、何も聞いてはいないですね 」 俺の目を見たまま淀みなく答える姿に、こういうやりとりに慣れているなと感じた俺はここはストレートに行くかと、 ここ何日かに起きた事を粗方説明をする。 藤間さんは一瞬視線を外したが、 「 それで、光はどこの部分に関わってると思われてるのでしょうか?」 「光君本人は何も話しませんが、事件の際当校の教員が話している事に拠れば 」 「 待ってください。本人は話してない。そして先ほどの話によると、 そのデータが盗難にあったとは届出されてないという事でしたね 」 彼は初めて強い口調で俺の言葉を明確に遮った。 「 そうです……」 「 つまり、息子が話さない以上証拠もない、その教師の方の話だけで教頭先生は私に話されているという認識でよろしいですか?」 なるほど、腹の探り合いは少しそっちが上か…… 高光を訪れた際の藤間の話はここではできないからな。 「 そうですね、そこのところを話して貰えるように説得していただきたいんですよ。親御さんとしても光君の話さない理由を知りたいのではないですか?彼は実際には関係ないとも言ってはいない。 ちょうど今二時限目が終わるので彼のクラスは次はホームルームに入ります。彼に同席してもらおうと思いますが 」 彼が嫌がるかもしれないと直感で感じた事を言葉に変えると、 「 いや、私ももう昼には出勤しなければならない。この事は今日家に帰ってから妻も交えて光と話します。光の授業の妨げをする必要はありません 」 一瞬顔を曇らせて同席を拒んだ藤間さんは腕時計を見やりながらこれは譲らないという態度でソファから立ち上がった。 近づいてみると意外と背が高い。最初は少し猫背気味だったのでわからなかったが、今は背中をピンと伸ばしているのか。少し好戦的にやりすぎたかな。 「 藤間さん、実は朝のテレビ番組に投書で当校の教師と生徒が不純な交友をしているのではと仄めかす内容のものが届いたとテレビ番組の関係者が取材に来ました。穏便にさせたい気持ちは私も山々ですが、本当の事を把握しないと護るものも護れません。そこのところをよくご理解の上、光君が知っている事を話すように説得してくださいませんか 」 最後の一押しをしておく。 「 テレビが……」 冷たく整った顔が、虚をつかれた様な表情を一瞬見せたがやはりすぐにポーカーフェイスを貼り付けて、 「 兎に角光とは今晩話します では、失礼 」 と見送りを断って応接室を出て行った。 「 本当に話すんでしょうか 」 担任の佐川先生の不安そうな声に、 「 まぁ、番組の投書が一回で終わる事を祈るしかないな 」 と俺も予想のできない今後を憂えて力なく答えた。

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