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第32話 不甲斐ない

夏の扉を叩くのは 32 ー 不甲斐ない ー その日の午後は兎に角忙しかった。 「 ヤァ、菅山君調子はどうだね 」 校長の能天気な声が固定電話から聞こえてきたときは、もう文句を伝える元気もなかった。 ざっと今日までのことを校長に伝え、明日から出勤すると言う元気な壮年の男の声に、 明日からは全部校長に押し付けてやると唸ったのは言うまでもない。 夕方になり本日の授業が全部終わる時間に三枝先生が俺にコーヒーを一杯入れてきてくれた。 「 お疲れですね、今年は梅雨も無くて異常に暑い日が続いてるし、先生夜は寝てますか? 」 あぁ、三枝先生と一緒に夜まったりとできるんだったら疲れも取れるんだけどな、と思いながら、、 いや、そんなことよりあいつ、高光は帰ってきたのか? 俺は熱いコーヒーを一飲み干すと三枝先生に礼と中座の断りを入れて校舎の工事現場に回った。 まだ五時少し過ぎたとこだ、作業員は帰っちゃいないだろう。 予想通り後片付けを終えて作業員が現場小屋に引き上げるところだった。 目を凝らして既知の姿を探す。 出てくる何人かに安堂さんの事を聞くと、昼作業員の一人とどっか行って帰ってきたかな?という甚だ心もとない話だった。 駐車場に回るとちょうど車が入ってきた。安堂さんのバンだった。 停まった車の中を覗き込んでも運転する一人以外誰も乗ってはいない。 「 安堂さん!高光は?」 「 あ、先生…… 」 降りて来るなり疲れ切った様子の安堂さんは自分の頰を軽く叩くと、 「 なんか、帰してもらえない 」 「 え?」 「 今日はまだ聞きたいことがあってとかみたいなことを言われて、 抵抗したんだけどなぁ 」 「 なんで?どういうことです?」 「 俺には詳しくはわからんけど、どうやら捕まってる男が高光の名前を出したらしい…… おたくの教師を一緒に脅したと か、なんとかって言うことらしいんだが、それ以上はどうも分からん 」 「今日は帰れないのか、警察にそのまま……派出所じゃなくて◯◯警察署ですか?」 うちの侵入事件はここの区の管轄の警察署だが、平田の恐喝事件は違う区の警察署になるらしい。刑事の名刺にあった管轄の警察署の名前を言うと、 安堂さんはそれに頷き疲れたように、じゃあと言って現場小屋の方に歩いていく。 俺は職員室にとって返すと車のキーを持って外に飛び出た。 くそ、あの野郎、高光を引き摺り下ろすつもりか…… 奥歯を噛みしめると苦い思いがこみ上げてくる。 あの時、あの真っ裸になった姿を目撃した時、二人の関係をなぜもっと突き止めとかなったのか。 不甲斐ない……全く俺は不甲斐ない…

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