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第36話 今さら、嫉妬のわけ
ー 今さら、 嫉妬のわけ ー
古いビルにありがちなタバコと汗と埃の混じった独特な臭いが篭る廊下でそれから1時間は待たされた。
夜の刑事部屋は人の出入りも少なくなり、俺の目当ての男たちも出てこない。
諦めてソファに深く座り大欠伸をしていると不意に、目の前の扉が勢いよく開いた。
出てきた榛の木刑事は俺見るとまだいたのかという本気で呆れた顔をしていた。
後ろから高光が出てくる。
榛の木刑事は背後を振り返ると
「 協力に感謝します。それではなるべく遠くには行かれないように、また色々お聴きすることになるかもしれませんから 」
と慇懃無礼に高松に伝えると
俺に簡単に頭を下げて若い刑事を連れて階段の方向に去っていった。
「 なんだお見送りもないのか 」
俺が呟くと、
「 あの、長い時間ごめん……」
薄い金髪の頭が軽く揺れ畏まった顔が長い前髪から覗く。
「 疲れただろう?腹も減ったんじゃないのか?何か食いに行こう 」
と手を伸ばし頭をクシャッと触ると高光は、
「 あんたいつも俺の胃袋の心配してるのな 」
と言ってふっと顔を綻ばせた。
可愛いなぁ……この歳でこんな顔で笑えるのは高光の性格によるもんだろうな。
「 さ、行くか 」
俺たちは連れ立って階下に降りる。
「 あ、ごめん。俺社長に、安堂さんに連絡しないと 」
車に乗った俺が黙ってスマフォを渡すと番号は暗記しているのかスムーズに番号を押して社長に連絡をしている横顔をじっと眺める。
形の良い顔をしているとは思っていたが、横顔をこんなにゆっくりと眺めるのは初めてだった。
少し張った額から流れるように鼻筋が通る。切れ長の眼差しは心持ち切れ上がり、弓のような眉は真っ直ぐに伸びる。
形良い唇は程よく薄くはかれ、その下の頤は少し鋭角な角度ですっきりと喉に繋がる。
喉仏にすら色香が宿っているようだ。
象牙色の肌を見せつけるように電話をしながら耳にかかる髪の毛をかきあげる指を、
掴まえてねっとりとしゃぶってやりたくなった。
社長とはいえ男に連絡する高光の穏やかな横顔に嫉妬する俺は、
この先この男をどうしたいんだろうか。
身体は手に入れてる、と思う。
後は、高光の心は……関心は、俺に向けられるのか?向けたいのか?
高光を、凌を、
抱きたい欲なのか、寄り添いたい情なのか、
今更ながらの嫉妬に
まだよくわからない自分の気持ちを持て余す俺だった…
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