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第37話 憤り
夏の扉を叩くのは 37
ー 憤り ー
思わぬ拘束を受けて疲弊したせいか珍しく口数の少ない高光に食べたいものを聞いても、ゆっくりと頭を振って自分の家に帰りたいと言うだけだった。
「 家に帰っても何もないだろ?外食が面倒だったら俺の家に来い。
何か作るから 」
と言うと歯切れ悪くそれでも帰りたいと言う。
もしかして、
「 藤間か?光がお前の家に来ると思ってるのか?」
と聞くと下を向いたまま小さく頷いた。
「 今日は藤間はお前の家には多分来ないと思う 」
ときっぱりと伝えるとハッとしたように俺を見る。
ちょうど車が夜遅くまで営業しているスーパーの前を通りかかる。車を駐車場に入れ高光を下ろし、こうこうと照明の灯るスーパーの店内に入った。
高光にカゴを持たせて、俺は目に付いた野菜や肉やらをぽいぽいとカゴに入れていく。
最後に酒売り場を回りワインを選びながら、
「 ここはスーパーなのに、ワインの品揃えは割ときちんとしてるんだ 」
と買い物の間も何も喋らない高光に話しかけると、その目は縋るように俺を見た。
「 なんで?なんで光が今日は来ないってわかる? 」
「 その話はうちでしよう 」
と強めに放った一言で高光を沈黙させると会計を済ませ買った品物を袋に詰めると又車に乗り込んだ。
どこまで話したら言いかな……
ここまで関わってしまってる高光に全く藤間と林教員の事を伝えないわけにもいかない。でもこいつに下手のことを言うと暴走しそうだし。
俺の方をチラチラと心配げに見ている高光の視線を横に感じながら俺は深くため息をついた。
ーーーーーーーー
「 風呂にゆっくり入って来いよ。飯の支度はその間にしとくから 」
自分の汚れた作業着が気になっていたのかソワソワしていた高光はおとなしく先日教えた浴室の方へ向かう。
着替えは出しとくから心配するなと声をかけ俺は買って来た食材で簡単に遅い夕飯の用意にかかった。
ワインを氷水を入れたクーラーに突っ込み、クローブを刺した玉ねぎ、乱切りの人参、じゃがいも丸ごとと適当にカットした豚バラ肉をコンソメスープで煮込みながら、煮えてきた中にソーセージとくし切りのキャベツを入れると即先にポトフが出来上がる。
岩塩と胡椒で味をしめた後用意したのは、
薄く切ったバケットにクリームチーズとトマトのスライス、そしてキャビアがわりのランプフィッシュの卵とスモークサーモン。
ポトフをたっぷりよそえば高光の疲れも取れるだろう。
ビールを飲みながらあらかた料理を完成させると浴室の扉が開く音がした。
しまった着替えを持っていくのを忘れていたと気がついた時にはタオルを腰に巻いた高光が後ろに立っていた。
ほとんど乾かしていない髪からは水滴が顔を伝わる。なめしたような肌の下、骨格が良く露われたその上半身。そしてちらつく小さな二つの乳首はまるで見てくれと主張してるようにツンと尖を際立たせている。
振り返り手を伸ばせば触れる距離でその姿を見つめる俺から視線を逸らしながら、
「 ありがとう、
風呂、気持ち、
、、良かった 」
と俯いて言葉を詰まらせる高光を
俺は抱きよせた。
「 大丈夫だ、何も心配するなよ 」
とそのまだ濡れている体を強く腕に抱いた。
俺はただ高光を俯かせる全てのことに憤っていた。
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