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第58話 傷害 13 唐変木

58 ー 傷害 13 唐変木 ー どうするか…… ともかくこれ以上のことを光に聞くのは今は無理かもしれない。 そうなると、花澤に聞くか。 それか、 高光に話を聞くとなると泰子に連絡を取るかしかないか。 そんな思案中、唐突に藤間さんに思考が遮られた。 「 菅山さん。 今、光が喋ったことはあなたの胸の内に収めて貰えませんか?」 は?今なんて言った?この男は。 俺は真正面に座る藤間さんの言に顔をしかめながら問い返した。 「 聞かなかったことにする気、ですか?」 藤間さんは深く頷きその拍子にずれた眼鏡を上に押しやると、 「 警察が問題にしてるのは、高光さんの傷害事件と光には関係ない平田とかいう人物の恐喝です。 職員室での盗難は被害届が出ない以上は警察の管轄じゃない、ましてやガラスを少し割って侵入したくらいだったら校内で始末がつく話だ。学校も公にはしたくないでしょう。 だったらこれ以上光が関わる必要はないと思います 」 と一気に淡々とのたまわった。 光の話に酷く動揺したくせに、もう元の表情で覆い隠したその冷たい顔貌。 流石元官僚出身者だ。臭いものには蓋をするのは当然と言ってるようなもんだな。 「 藤間さん、それは無理だ 」 彼は光の心の叫びもこのまま蓋をするつもりか? 卓上に突っ伏したまま動かない光を見てこの男は何にも感じないんだろうか? さっきの動揺ぶりから光の思いは薄々知っていたと思ったが。 「 とにかく、今夜はお引き取り願いたい。もしこの子が職員室の窓ガラスを切ったということであれば弁償はします 」 弁償?俺が言ってるのはそんな簡単なことじゃない!朝から大騒動だった今日、最後に最大の怒りが湧き上がった。 あの画像がアダルトサイトにアップされている始末はどうするのか。 しかし、心の中の一番きついところを吐露し消沈した光の前でこれ以上言い争うことはできない。 そして、今晩ここに光を置いていけるか? 俺はソファから立ち上がるとスマフォの履歴の手繰り表示された名前を押した。 「 菅山です。先程はお疲れ様でした。校長には? そうですか、ありがとう。 それで、折り入ってお願いが 」 校長と聞いて不審げに俺を見やる藤間さんを見つめながら俺は彼に聞こえるように先を続ける。 「 急で申し訳ないんだが、藤間君を今晩預かって貰えないだろうか? そうです。今彼の家に父親と三人で。 そうです。迎えに来てもらえると……俺、私はまだ藤間さんと の話が終わらないので 」 内容が伝わり何を勝手にと言わんばかりに激昂して立ち上がる藤間さんを見つめながら胸の中で独りごちた。 徹底的にやってやる……この偉そうな唐変木め。 簡単に住所を確認し到着したら電話下さいと通話を切った俺に、 「 あなた何を勝手に、光を預かってくれなんて!」 珍しく声を荒だててる藤間を見る。そうだ興奮しろ、その分だけ素直な言葉が飛び出てくる。煽るような言葉を繋ぎたいがまだ目の前には光がいる。 伊達に教師をやってたわけじゃない。保護者が興奮すればするほどこっちは冷静になるもんなんだよ。 俺は俯く光の側に屈み込む。 「 光君、今三枝先生に君を今晩預かってくれるよう頼んだんだが、君もそれでいいか?」 「 何を言ってる!光の保護者は私だ。光は家から出さない 」 「 藤間さん、さっきの光君の気持ちを聞いていて、今晩私が二人をこの部屋に残して帰ることができると思ってる?」 藤間が息を飲む音が響く。 僅かに訪れた静寂に 「 俺、 行きます 」 力ない声が小さく漂った。

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