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第62話 傷害 17 不完全な安堵
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ー 傷害 17 不完全な安堵 ー
藤間さんは花澤祐樹の父親の店のことがどこまでわかっただろう?
かなり本音を語るようになった男に俺は別れ際にある提案をした。
暫く光君を三枝先生に預けたらという俺の提案を僅かな躊躇を見せながらも藤間さんは受け入れた。
母親の夜勤が多い生活では夜には必ず二人になる時間がある。
彼が、光が落ち着くのが最も大切な事で二人にならないという理由で藤間さんが自宅から出るのも彼にはストレスになるだろう。
そんな話をしながら夕飯を終え、車はパーキングに置いて帰る俺と藤間さんは駅で別れた。
電車の中で音量を下げていたスマフォがバイブした。
同時に入ったメッセージの発信者は剣崎泰子だった。
俺は途中下車すると直ぐに電話を折り返す。
「 ごめん、電車だった。
途中で降りたから大丈夫だ
それで?」
剣崎からは花澤との示談がまとまったことを告げられる。
花澤の店は平田が捕まったことによって売春の容疑がかけられ、花澤自体がそれどころではなくなったらしい。
「 傷害の方は示談の要件が整ったら高光さんは釈放される。平田容疑者の累犯の捜査、その証拠集めは今からだということで完全に疑いが晴れたわけじゃないけど」
そこは泰子が関係者から高光とは関わり合いがないという証拠や証言を集めてると聞く。
「 帰れるのはいつ頃?」
「 そうだね、、、、
明日昼過ぎにはなるかな 」
俺も行けたら行くと告げて電話を切る。
釈放される、帰れる……ホッとしたら飲んだビールが一気に足にきた。ホームのベンチに座り空を見上げると厚い雲の切れ間に白く霞む月が出てきたのが見える。
まだ不完全だ。完全に安堵はできない。平田の累犯の捜査が高光に及ばないよう俺は祈るしかない。
売春の時効はどのくらいなんだろう。泰子に聞いておけば……
店にいたってことは売春やってた?いや、そもそも性行為をどこまでしていたかもわからないのに……
悶々とそんな事を考え込み気がついた時には時刻はもう夜半になろうかという時間だった。
慌てて三枝先生に連絡を取り藤間さんの承諾が得られたから暫く光を預かってくれるようお願いをする。そして花澤と高光との事件は示談になるはずだと話す。
「 大丈夫です。責任持って。
示談になる?そうですか、安心しました。
光君に変わりますか?」
「 あぁ、俺からも話しておきたいことがあるから代わって欲しい 」
電話の向こうで一言二言会話があり通話口に光が出てきた。
「 高光、帰れるの?」
「 そうだ。心配したな 」
電話の向こうからすすり泣く声が聞こえる。
15や16の頭で必死で考えて心細い気持ちを我慢してたんだろう。
「 暫く三枝先生の家に泊めてもらえ。
思いっきり先生のところで甘えたらいい 」
と伝えると、
「 うん 」
と小さく呟いて再度三枝先生に電話は代わった。
「 では、明日また藤間君の自宅に寄って勉強道具や着替えを用意しますね 」
「 手数かけて申し訳ない。一人にせずに少し落ち着かせてやりたいからお願いするな 」
「 はい、思いっきり甘えてもらいますよ 」
「 頼む 」
と告げて通話を切る。
堅く囲われた部屋でしゃがみこむ高光の背中に少し光が差し込んだ気がした。
早く明日になれ。
その硬くしなやかな身体を思いっきり抱きしめ、
そしてお帰り、と言おう。
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