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第64話 おかえりって、
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ー おかえりって、 ー
それから警察署に戻り待つ事二時間。
日が傾きかけて来た頃三階の刑事部屋の前で待っていた俺の前に剣崎に連れられた高光が立っていた。
刑事に頭を下げて慇懃無礼に挨拶をする漆黒のスーツを着崩しもしていない剣崎の姿勢の良さと、薄汚れて吸った汗の匂いを纏った灰色のTシャツといつもの作業服のニッカポッカを履いた高光の姿。
俯いた頭を更に下げた項は白い汗の塩が浮いていた。
留置所が暑かったんだろうか。飯は食えたのか。寝れたのか。
溢れる疑問を抱いて二人と一緒に階段で下に降りる。
その間も俺と目を合わせない高光を寂しく思いながらも今日は家に連れて帰る事は決めていた。
警察のエントランスを出たところで、
「 これから少し質問に答えてもらいたいのだけど、その格好じゃあ気持ちが悪いね。
菅山さんの家はここから近い?
近いならそこ行こうか 」
「 え? 」
と驚いた高光を駐車場に促すと俺を急き立て、惑う高光をさっさと車に乗せる。
二人で後部座席に収まると、
「 暑い、エアコン早く 」
命令になれた口調は普段でも男二人くらいは軽く動かしてるんだろうという片鱗を見せていた。
高光の礼を言う声が低く聞こえる。
「 良かったよ、あのコンビニの店員が見てたから 証言が取れて」
それ以上の会話は続かず後は俺の家まで車の中に響く音はエンジンと微かに聞こえる外の物音だけだった。
「 随分と立派な家だ 」
褒められたのかどうなのか今一わかりにくい声音に、
「 まぁなんとかの七光りだ 」
と自虐気味に答えながら、
剣崎と喋ると言わされてるって被虐な気分にどうしてもなる。
と青木が言っていたセリフを思い出しながらエレベーターで階を上がる。
終始無言の高光が気になるが、警察でもここでもお帰りと言うシチュエーションにはならないのでそのまま歯がゆい思いもしている俺に剣崎が話を振ってくる。
「 ここで独り暮らし?
勿体ない……シェアハウスにでもしたらいいのに
世の中独りもんだらけだ 」
「 なんだよ……それは。
なんで一緒に住まなきゃならない、恋人でもないのに 」
「 コーポーラテイブハウスって知ってる? 」
「 あぁ、名前だけならな 」
「 同僚が住んでるって言うから先日見てきたけど、結構後は大変そうだ 」
なんの話を始めたのかわけがわからなかったが適当にそうかと話を返すと、
「 理想を追い求めたつもりでもどっかで綻びは必ずあるって事。
現状を生かすってのが大切なんだよ。
高光さん、お風呂でリフレッシュしてきたらいい。着替えは菅山さんのがあるだろうから 」
「 え?」
と驚く高光を強引に風呂に追い立てる。俺は仕方なしに初めて来た客の様に高光を風呂場まで案内した。
「 ごめん 」
高光の小さく呟く声。
洗面所のドアを開け高光を中に入れ俺も一緒に入るとドアを閉める。
鏡の前で俯く高光を抱きしめたいのを我慢して、
「 良かった、お前戻ってきて本当に良かった。
光も心配して泣いてたぞ……
子どもに心配かけるなよ 」
と鏡に映る高光に軽い口調を装って話しかける。
「 光……俺のせいで 」
それでも苦しんでいるのか、いよいよ俯いてしまった高光の肩を叩く。
「 その話は剣崎がいるからなんとかするさ、風呂浴びてこい、全部流してこい 」
「 うん 」
と頷いた高光。
少し痩せたか……
俺は何か食べさせるものがあったかと頭の中で冷蔵庫の中身を思い出し献立の算段をした。
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