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第65話 噂は、噂じゃない
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ー 噂は、噂じゃない ー
居間に戻るとキッチンの冷蔵庫を覗く剣崎の背中が見える。
「 冷蔵庫にも冷凍庫にも食べ物のストック凄いじゃないか、
私がここに住もうか 」
「 冗談はやめてくれ
なんか、食いたいものがあるか?」
「 これ何?」
とジップロックを三つほど取り出した。
「 あぁ、麻婆ナスとキュウリの甘酢漬けと、青椒肉絲だ
それと炒飯作るか 」
「 え?そんなもんも作れるのか?」
「 炒飯なんてご飯と玉子あったら誰でも作れるだろう 」
「 当たり前のように言うな……
作れない人間もいる 」
「 まぁ俺が作れるからいいじゃないか 」
解凍したご飯にレタスと玉子で炒飯の鍋を振っているとその間に風呂から上がった高松がキッチンに入ってくる。
「 俺もなんか手伝う?」
「 助かる、そのジップロックの中身を鍋に開けて、そうその中が茶色のやつを二つ。
緑のは漬物だからそのままなんか器にあけてくれ 」
剣崎を見ると書類を眺めながらどこかに電話をしている。
できた炒飯を大皿に盛ると、鍋の温まったおかずから食欲のわく匂いが漂ってくる。
俺と高光が頂きますと言うと剣崎がどうぞと言うので、思わず
「 どっちがやねん!」
と言い返した。
その言葉にやっと笑った高光に愛おしいという気持ちが湧いてくる。
「 おい、顔緩んでる」
炒飯をがっつり自分の皿に二人分つぎながら剣崎から注意を受ける。
教頭になった俺に偉そうに注意をするのは剣崎と青木ぐらいだな、結局二人とも似たものなんだと心の中で毒づいた。
元気のなかった高光も人に気をつかう気もない剣崎の隣で、麻婆ナスと青椒肉絲、炒飯を頬張っている。
「 美味いか?」
と聞くといつも通りにコクコクと頷く。暫くその顔に見惚れてる間に後のおかずと炒飯は全て泰子の腹の中だ……
腹を満たすと、いよいよドーベルマンの高光への質問が始まる。
高光が話しにくいことを考えて俺は席を外した。
俺も目の前で泰子の詰問を見たことはないから今ひとつあだ名の真相は知らなかったが、
終わった時の高光の疲れ切った顔。焔に炙られた後のような乾ききったその姿。
噂は噂じゃなかった。
「 知りたかったことは大方わかった。
帰る 」
送って行くからと言うのを、
一回事務所に帰るからタクシーをもう呼んだと言う剣崎。
玄関まで見送ると、
「 これから先は私に任せて、そして過去に逃げるな 」
と剣崎が高光に念を押す。
剣崎が帰りドアの前に立ち尽くしてる高光の背中を押して居間に戻る。
黙ったままで今日初めてしっかりと俺に目を合わせた高光。
「 何を考えてる?」
ただ黙って首を振る。
「 変なことは考えるな。俺のそばに居ろよ。必ず守ってやるから、お前も光も…… 」
「 ダメだよ。俺に関わっちゃダメなんだ。みんな壊しちまうから!」
横に振る頭が止まらない高光を抱きしめた。
言葉じゃ止まらない。こいつの苦しみは一緒に抱えてやらないと止めることができないんだ。
俺は強く強くそう思った。
止めてやりたい。どうしようもないこいつの過去を埋めてやりたい。
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