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第70話 タクシー
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ー タクシー ー
顔を貸してと言ってきたのは高光と育った施設が一緒だった5歳年下の栄田という男だった。
前に俺がここに高光を連れてきた時に久しぶりに再会したということで、それから何回か高光とは会っていたらしい。
店を早退した彼に連れて行かれたのは、彼の寝ぐらのアパートだった。
電気の点いてない部屋を見上げて
「 やっぱ、帰ってないか……」
と呟くと、
「 ちょっと距離あんだけど、付き合って」
と言っておもむろに早足で歩き出す。
「 おい!どこに行くんだ?
距離あるならタクシー止めるから待て 」
剣崎はそういうと大通りの方に向かう。
ちょうど来た流しのタクシーに三人で乗り込む。
「 どこに行くんだ?」
「 ◯◯町付近に行って欲しいんだけど 」
栄田が運転手と少し行く先のやり取りをすると車は走り始める。
「 どこに行くんだ?」
再度栄田に尋ねると、
「 コンビニだよ 」
「 え?コンビニ? 」
「 三軒あるコンビニのどこかはわかんないけど、下見に行ったのはそこだから 」
「 下見?何の下見だ?」
「 …… 」
黙ってしまった栄田。
タクシー運転手の、
「 お客さん、この辺でいいですか?」
という声がかかる。
タクシーを降りるなり堰を切ったように栄田が喋り出す。
「 あの、コンビニに凌さんがいるのかもしれない 」
「 どういうことだ?」
高光がコンビニ強盗をする、それも平田が捕まってる警察の管轄内で。
話し出した栄田の話に握りしめた手が震える。
「 留置所内で平田をやっちゃうかもしれない 」
高光は昔平田の店で一緒だった仲間に、施設での買春の手引きで平田と光の母親が繋がっている事を教えられた。
平田が務所に入ってる間にでも人を使って光の母親に口封じをするつもりらしい、もしかしたらおまえの子どもに手を出すかもしれない。平田が拘置所に送られる前にお前が先にやっちまえ、
ととんでもない入れ知恵をされたらしい。
そこのコンビニを襲えば平田と同じ署で逮捕される。二、三日考え込んでいた高光が悲壮な様子で今日出て行った。
もしかしたら今夜仕事帰りにやるつもりかもしれない。
俺ではとても止められない。
「 本当にあんたが今日来てくれて良かった 」
なんてバカなんだ!
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