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第72 話 ナイフ
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ー ナイフ ー
腕が痛い……多分ナイフが刺さったんだな……でも俺で良かった。
リノリュウムの薄いベージュ色の床に点々と赤色の滴が落ちる。
周りがどんなに騒がしくても絶対に高光は離さない。
いつのまにか外にはパトカーの回転する赤色灯が何灯もガラス越しに真っ赤に光って見えた。
「 しっかりしろ!」
耳元で剣崎が怒鳴る。
ハンカチで床の血を拭くと素知らぬ顔で俺の腕に持っていた自分のスーツの上をかける。
「 いいか、これから二人は絶対になにも、私が言うまで何も喋るな 。
高光さん、あんたも絶対に喋っちゃダメだ。
いいか、絶対だ 」
強くそれだけ俺たちに伝えると、
ゾロゾロと入ってきた制服の警官たちに向き合う。
なぜか気がついたらもう栄田は姿を消していた。
呆けたような高光を抱えたまま、俺は呆然と剣崎を、見やる。
堂々と、ひたすら堂々と話し続ける剣崎。
コンビニの店員とおそらく店主だろう二人は剣崎に何か詰まられるとひたすら頷いている。
警察官が口を挟むがその度に剣崎がそれを遮るので、警官達の表情にも困惑が見える。
身動ぐ高光を抱え直し、俺は彼の身の回りをざっと眺める余裕も出てきた。
見回すと、あるはずの何かが足りないか?
そして、高光の手にあったナイフもその場から消えていた。
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