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第74話 バカみたいに
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ー バカみたいに ー
事実の確認から始まった質問は俺と高光の仲を問いただすところまで来た。
「 高光凌さん、あの方との関係は?」
「 友人です 」
「 いつからですか?」
「 この5月前、4月の末からです 」
少し警官の沈黙があった。
「 現場に居た方の話によると大きな声であなたが店に入ってきたので何事かと思ったと、どのような理由で大きな声を出すことに?」
そうだ、たった4ヶ月前に知った大事な友人、いや違う。
俺が芝居をうつ?なにを誤魔化すんだ?
高光との関係を誤魔化す必要なんて、ない。
「 すみません間違えました。恋人です 」
「 え?」
「 友人ではなく彼は私の恋人です。
彼にはまだ受け入れてもらってないが 」
「 そ……そうですか。それが?」
「 受け入れてもらえない事で少し口論になりました 」
「 高光さんの方はそう思っていないと?」
「 多分まだ、
多分怖かったのかもしれない 」
「 は?怖かった、とは?」
「 言葉にはまだしていなかったから 」
そうだ、伝えてなかったんだ、まだ好きだと、お前が好きなんだと。
すっかり慣れたパトカーの車内の匂い、俺は嘘じゃない正直な気持ちを喋ることに馬鹿みたいに熱中した。
呆れたのか言葉少なくなり、とうとう沈黙してしまった警官相手にバカみたいに高光への気持ちを話す俺。
最後には、
夜真っ只中なのに闇が去り朝が来たような気分になっていた。
一時間ほど続いた事情徴収はやがて署まで同行して頂けますか?と言うおずおずとした警官の言葉で終わる。
「 構いません。どこだって出向きますよ 」
そう言う俺の顔を眺めながら前の警官が初めて口を開いた。
「 杉並の◯◯高校って、私の出身校です 」
「 そうですか、おいくつですか?」
その会話を聞きながら俺の隣の警官は車外に出てどこかと通話を始める。
「 27歳です 」
「 10年くらい前の卒業生かな?
私の赴任は5年前だからその前の卒業生ですね 」
「はい。
三枝先生って方まだいらっしゃいますか?」
「 三枝先生?数学の?
だったら居ますよ 」
「 そうですか!」
やたら嬉しそうな顔をして……この若い警官。
「 名前聞いても?」
「 はい、佐藤哲矢と言います。
三年の時三枝先生が担任で、私は喋るのが苦手だったので心配かけて、採用試験に受かるまで本当にお世話になったんです 」
懐かしそうに甘い瞳で語る彼に学校を、教室を教壇を思い何故かとてもホッとする。
「 そうですか、三枝先生が担任だったんだ 」
人の繋がる思い、偶然の一致に妙に懐かしい既視感を覚えながら、これから起きる事をなんでも受け止めようと俺はそう思った。
最後に俺のできることをきっちりとやってやる。
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