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第82話 告白

82 ー 告白 ー 「 今夜私がここに呼ばれたのはバーベキューを楽しくって理由だけじゃなさそうだが?」 まさに図星だった。光と凌が居るところで是非とも聞いておかないといけないことがある。 それは花澤祐樹のことだったし、更に平田にも関係していく話になると思う。その先は高光凌の過去の話にも及ぶことになる。 どこまで平田のことを光が知っているのか。花澤祐樹と光の関係は…… 「 事件のことで引っかかっている事がある。 花澤と殴り合った凌はもう知っていて、この先の話を知ることで凌にショックを与えることは無いと思うが……」 「 菅山さん、あなたの知っている事は全部高光さんは知っている 。 知らなかったことは光君が藤間さんに特別の好意を持っていたことで花澤祐樹に好きなように動かされていたという事だけだ……それも私が光君に了解とって話したよ 」 それなら、と俺は話を続ける。 「 光君が藤間さんに好意を抱いているのを知った花澤君が光君をそそのかしてゲイだった林先生に光君の例の動画を撮らした。 それをネットに上げて林先生を脅したのが花澤君。それをまた林先生の仕業だと光君に伝えたから光君は怒ってテレビ局にあの投書をした。 ここまではわかってる。 それに平田がどう関わってるんだ?」 「 平田容疑者は花澤君と林先生の話を盗み聞きしたんだ。そして花澤君が教員室から盗んだデータを花澤君から買った。それで林先生は平田にも脅迫されていたんだ 」 「 光君は?花澤君とどういう関係だったんだ?」 光は臆する事なく言い切った。 「 最初は友だちだった。でももう今は違う 」 顔を確りと上げて凛として話し出す表情には少年が色々な経験をして自分を信じる事のできる青年に変わっていくんだという力強いメッセージが込められている。 「 小学生の時は虐められてる俺を庇ってくれたし同じ団地に住んでいたから仲良くしてた。 祐樹君のお母さんが祐樹君の家から出て行っちゃってからは祐樹君、付き合う友達も変わったんだけど、俺は5年生の時に母さんと違う所に引っ越しして団地から遠くはなったけど、俺の通ってる塾は駅のそばにあったから駅近くの辺で祐樹君と会うこともあったし、祐樹君のお父さんのお店にも誘われてよく遊び行ってたんだ。 平田っていう人にはそこで俺も会った。母さんの事をよく知ってるっていうからお店で会ったら声かけられていたし。 祐樹君も俺の母さんが平田さんの店にいた時にやっていた事を知っていて、昔のことは黙ってるから仲良くしようって。 俺、だから祐樹君の欲しいもの買って上げたりしてたんだ。 最初は別に祐樹君におどされてやってた訳じゃないけど、祐樹君付き合う相手が変わってくると段々俺からお金を貰うのが平気になっていった。 それでもあの店に通うの辞められなくて、だってあの店でしか本当の自分を出せなくて、 それで林先生と ……」 「 俺だろ! 俺が悪かったんだ。平田と繋がってた俺のせいで、 俺が昔やってたことのせいで、 俺が……平田のいいなりになって…… 」 悔しそうに言葉を絞り出す凌に光が強く言い返す。 「 違うよ、高光のせいじゃない。お母さんがまたその平田っていう人と会っちゃったのは俺にどうしてだかわかんないけど、高光のせいじゃない 」 「 お母さんが平田容疑者と再会したのは勤務している介護施設で2年ほど前に増築工事をしていた時だったとお母さんの担当の弁護士からそう聞いている。 だから私もそう思う。 高光さんのせいではない、偶然だったんだ。店を潰した平田さんがその後ついた仕事は内装関係の作業の仕事だった。抜け目がない彼はその内自分でも仕事を取るようになって何人か作業員も抱えて自営した。 それは高光さんも知ってるね 」 頷いた凌が滅多にないことだが長いセンテンスを話す。 「 俺もびっくりした。あんな汗を流す仕事にはぜったいにつかないと思ってたのに今度の高校の現場に安堂さんの仕事仲間が連れてきた内装屋の中に平田がいた。 工事が始まって暫くして、その平田が林さんって先生を脅しているのを見たんだ。 それで俺は平田が光にも何かするんじゃないかって心配で 」 一気にそう話すと、また前の気持ちに囚われたように不安な顔を見せる。 「 平田さんと花澤君のお父さんが昔一緒に仕事していたのがこんな形で繋がってきたんだ。決して高光さんのせいでこの事件にサツキさんや光君が巻き込まれた訳じゃない 」 そう言われても凌の顔は全く納得していない様子を見せていた。 「 それで、凌の今後は……?」 俺は一番気になっている事を剣崎に問うた。 「 それはまだわからない。平田容疑者の供述で捜査が行われてるのだろうがどこまで広がるのかは私にもまだ予想はつかない。 ただ、高光さんは今度学校の現場で会うまでは店が潰れてから一回も会っていないと私に話している。 そうなら平田がその後恐喝したと思われる何人かの人は高光さんの事を知らないはずだ。 介護施設の方も高光さんの事が出てくる 事は ないだろうし 」 「 違う……」 「 え?何が、違う?」 「 違う。俺介護施設にサツキを訪ねていった事が何回かあるんだ。だから俺の顔を知っている人はいる 」 「 なんのためにサツキさんに逢いに介護施設に行ったの?」 焦る様子もなく剣崎が尋ねる。 「 金、お金を渡しに行った。サツキは受け取らなかったから少し口論みたいになって……職員の人に帰れって言われた事がある 」 「 それはいつ頃?」 「 サツキが再婚する前に、光を塾にやりたいって言ってて金がないって言って……俺どうしても、役に立ちたかった 」 「 何年頃?」 「 光が6年生になる少し前……」 「 今時珍しい話でもない。今じゃ、低学年から塾に通う時代だ。毎月3万以上かかる塾も普通にある。 介護施設の給料じゃなかなか塾の費用を捻出するのも大変だったろう 」 と呟く剣崎。同意するように三枝先生も頷いた。 「 それで凌は光君に直接渡していたのか?」 お金を渡す理由はそこにあったかと妙に納得して俺は凌に確認した。 「 そうだよ、だって金は別に誰が稼いでもただの金じゃないか、光が自分のだと思って使えばそれで良かったんだ 」 「 ふーん、今から5年前か。その後は?介護施設に高光さんは行った?」 「 その後は行ってない。直接光に渡すようになったから 」 「 それが結局花澤君に渡っていたのか 」 最後の剣崎の一言にうなだれる二人の親子。 三枝先生が光の肩を抱いて、 「 高光さんにお父さんに逢いたかったんだよね。お金よりもお父さんに逢いたかったんだ……」 と優しく声をかけると光の目からは涙が溢れ、膝に置いた指は固く結ばれて嗚咽を漏らすのは今度は凌の息子の方だった。 粗方を理解した俺は、暗く切ない話の話題を変えるために、冷凍庫に保存してあった昆布の出汁で土瓶蒸しを作った。 ちょうど早ものの松茸がデパ地下で売っていたのを迷わず買った俺に、法外な値段だと凌がレジが済むまで横で抗議していたのを思い出し笑いしながら話すと、みんな一様に笑顔になる。 「 どうして一人暮らしの家にこんなにたくさんの土瓶があるんだ?」 という凌の疑問に、 「 菅山さんの家は江戸の頃は殿様大名だったらしい 」 と言う剣崎のデマを信じる凌に又愉快な笑いが起きる。 素直で真面目でアホみたいなお人好し、そんな凌のお陰で俺の平穏無難な人生は、様変わりし事件と問題だらけの喜怒哀楽が日常になった。 忙しいこの日常、俺は生きてるって感じがするぞ、 凌、本当にありがとう。

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