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第83話 そのあとのこと
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ー そのあとのこと ー
その日の夜、先に風呂を浴びベッドルームに入った凌の後から寝支度を終えてベッドに横になると、
部屋の半分が暗くなった側のベッドから眠ったと思っていた凌が俺に話しかけた。
体温高めの俺が一緒に寝ると凌が夜中汗をかきゆっくり休めないと困ると思い、
二人でゆっくりと身体を開いて触れ合いたい時以外は、
ホテルのツインルーム仕様に作った二つのベッドに別々に寝る様にしている。
独り住まいの時には片方のベッドはいつも俺の服が散らかっていたのだが最近ではすっかり二人の部屋らしく整えられている。
「 なぁ、ヒロシ先生が好きだったんだろ 」
「 なんで?凌が好きだと言っただろ 」
……暫くの間黙った凌が徐に言葉をつなぐ。
「 ヒロシ先生ってあの歳でも色っぽくて綺麗で、頭良くて……
俺、あんたが好きになるの当然だと思ってた 」
「 凌……あんたじゃない、教えただろ?俺の名前 」
「 あ、うん、ごめん……
マサキさん 」
「 凌、俺は今はお前だけだ。
お前しか見てないから 」
黙ってしまう凌に俺は又不安な気持ちが湧き上がる。
「 俺の側にいろよ。
居なくなるなよ 」
凌が寝返りを打ってこちらに顔を見せる。
「 俺さ、明日安堂さんの所に謝りに行ってくるよ。それからまだ辞めたことになってないなら仕事欲しいし 」
「 そうか、一人で行けるか?」
「 大丈夫……」
送って行くと言わなかったのは俺が安堂さんに対する気持ちを変えたせいでもあるが、なによりも凌が決めた事を見守ってやりたいと思ったからだ。
俺の家に一方的に厄介になるのは凌の男としてのプライドだって引っかかってるのだろうとは薄々は感じていた。施設を出てからずっと一人でやってきた凌。
手を離すところは離さないと凌の生き方を邪魔することにもなる。
「 その後、栄田にも会ってくるよ……世話になって、あれっきりだし 」
「 わかった、遅くなっても帰ってこいよ 」
枕に頭を付けたままでどんな顔をしているのかはわからないがコクリと頭が動いたのは頷いたんだろう。
色々足したい言葉も胸に押し込めて俺は寝る努力に入った。
後半の夏休みの間に花澤祐樹は自主退学をすると父親から連絡があった。本人の意思を確かめたかったが会う事は一切拒否をされ、結局始業式後に行われる花澤祐樹と藤間光への学校側からの処分も光一人へのものとなった。
田上校長と退学相当という上層部のやりとりでかなり田上さんが強引に通したのが二人の停学と決定された処分。
それぞれに一ヶ月の停学を課すことで終わる筈だったが花澤祐樹の退学は全く望んでいなかったことだった。今は無理でも必ず彼には会って話をしようと俺は心に決めた。
夏休みも終わりを迎え、明日始業式だという日に剣崎から連絡が入る。
捜査が進み別のものが平田と施設の被害者との間を取り持ちしていたという事実が浮かんできて、
サツキさんの疑いは証拠不十分で起訴はされなかったが、
サツキさんの希望で藤間さんとは離婚になるという。
それなら光はどうなるんだ……
そこが一番気になる所だった俺に剣崎は話を続ける。
光は母親の元に戻り、介護施設からの紹介でサツキさんは又別の介護施設で働きながら光君もなんとか学校は続けられるという話にホッとした。三枝先生のところの子供たちとも仲良くなったおかげで花澤とも縁が切れとてとても明るくなった光 。
藤間さんとのことは青木の言う通り時が解決するだろうと思うしか今はない。
三枝先生に連絡をすると、もうサツキさんの弁護士から連絡が入っていたようで
「 はい、今週はお母さんの仕事がまだ落ち着いてないので俺のところに居て貰おうかと思ってます。明日から学校も始まりますから、光君への処分渡されるんですね。
停学と聞きましたが 」
「 あぁ、一ヶ月の停学処分だ 」
「 そうですか、謹慎にはならなかったんですね……花澤祐樹は残念でした。俺も何度も会おうとしたんですが向こうのお父さんと弁護士が強硬で一切関わってくるなと、でも高校卒業の資格はないと困ると思うんですが……」
「 仕方ないさ、まだ捜査も続いているんだろう。花澤さんと話をできないかと向こうの弁護士にも伝えてみるよ 」
転校するにしても前の学校の調書や証明書の類がいるだろうし、このままってわけにはいかないのを花澤さんもわかっていると思う。
重い気持ちのまま、最近また安堂さんの所へ仕事に行くようになった凌にサツキさんが離婚を望んで光がサツキさんと二人になると話したらどんな反応をするかと気にかかる。
安堂さんの会社に戻った凌の仕事場はうちの高校から安堂さんが他にやっている別の現場に移っていた。
湾岸の方の工事で帰宅するのは夜7時ごろ。
それまでに夕飯は凌の好きな餡掛け焼きそばにでもするかと冷蔵庫の在庫を確かめる。
冷蔵庫を覗きながらスープはどうしよう苦手な椎茸のスープにでもしてやろうかと思いつきながらいつのまにか歌を口ずさんでいる自分に驚く。
俺は二人の生活が本当に楽しいと心から思った。
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