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第84話 そして

84 ー そして ー 夏休みが終わり始業の日から一週間。俺は高校で最後の教員生活を送った。 生徒の中には俺が退職する事を知りなんと泣いてくれた子までいる。 三枝先生に言わせると、 「 菅山先生の雑然とした鷹揚な格好良さは本当に生徒に人気ありましたから 」 というなんか褒められたのかあ違うのか、だが、女生徒より男差生徒たちに特に惜しがられたのは不思議だ。 あっという間の一週間だった。 送別会は退職の理由が理由なだけに年内に有志の者だけで集まって席を持とうという田上校長の配慮が嬉しい。 平田の脅迫事件の捜査が気になるが今のところ剣崎からの連絡もなく、凌も仕事であった事を話してくれるその節々に平穏な生活を送れている様子がわかる。俺の前では安堂さんの名前を言いかけて慌てて引っ込める姿勢がありありとわかる事だけが不満なんだが。 そういう時には平日でも夜ベッドに引き込んで執拗に喘がせる俺も俺だがな。 積み残した問題……相変わらず、藤間さんとも花澤祐樹の方とも連絡は取れないが、明日から時間もたっぷりある。 直接会いに行くという手段もあるだろう。 やり残しの仕事を考えながら駐車場に向かう。 今夜は青木が一杯やろうというので青木を紹介するから一緒に行かないか?と凌に聞くと、 「 ごめん、用があるから 」 と、瞬間断られた。 そう言えば凌の知っている俺の知り合いは剣崎くらいか…… それなら剣崎と友人だと教えてある青木に最初から臆すのもわかるような気がする。 まぁ、青木も初対面から人を食うところがあるからまだ凌に会わせるのは可哀想かもしれない。 一旦家に戻ってから青木との待ち合わせの場所に向かおうと車に乗るとスマホに着電があった。 え?藤間さん? すっかり流れることのなかった名前がスマホのディスプレイを流れていく。 数秒置いて通話をタップすると、俺は 「 お久しぶりですね 」 と声をかけた。 「 ……藤間です。何度も伝言頂いていて返しもせずにすみませんでした 」 「 いや、お忙しいのかなと思ってましたから。 又、 今回は上手くいった事もあれば……残念なことも、ね 」 「 ご存知、ですよね。離婚されました 」 離婚された、という言い方が妙におかしくて不謹慎だと思いながらも笑いが溢れる。 「 笑われましたね…… 」 「 あ、すみません。妙な言い方をされるものだから 」 藤間さんは深く息をつくと、話したいことが、いや聞いてもらいたいことがあると俺に告げた。 光の事だろうな、直感でそう考えた俺はある事を思いつく。 「 藤間さん、今晩時間取れますか?」 「 ええ、多分8時くらいにはなると思いますが 」 「 それなら会わせたい人がいる 」 「 え、それは……」 「 大丈夫、光君たちじゃないし、この間お連れした店でもありません。私の友人です 」 「 ……菅山さんの、友人?」 「 藤間さん、あなたの悩みに一番答えを持ってる男かもしれない 」 「 悩みって、私はただ 」 俺はしどろもどろに言い訳をする藤間さんに強引に約束を取り付けた。青木に藤間さんを会わせてどんな結果になるかはわからないが、何もしないよりはマシだろう。 青木にせいぜい頑張ってもらおう。片方の問題に日が差したような気分で俺は軽快に車を自宅にとばした。

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