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第92話 変わること

92 ー 変わること ー ベットタウンと言われる駅に着いたのが電車に乗って45分後。 こんなに長く電車に乗ることは最近ではなかったなと思いつつ、スマフォの地図頼りに目的のビルに到着する。 エレベーターで上がり短い暖簾のかかる店の扉を開けると、カウンターとテーブル席が二つほどのこじんまりとした寿司屋だった。 いらっしゃいませ、菅山さまですか?と問われそうですと答える。 そちらへと促されるままに無人のテーブル席に腰をかけると、トイレと思しき奥から藤間さんが出てくる。 「 あぁ、こんばんは、すみません席外してて 」 「 いや、こんばんは 」 その後の言葉が続かない。 人が来る時間にトイレに入ってるような気を抜いた感じの人ではなかったよな。まるで最初の印象とは変わった藤間さんに少々戸惑う。 おしぼりを受け取り、藤間さんに最初はビールで良いですか?と聞かれる。 頷くと、 「 ビールで 」 と中居さんに声をかけ、 「 本当はカウンターが良かったんですが話す内容が内容なんで 」 と笑いながら断りを入れる。 「 そうですか 」 と答えながら、同性の間の話をカウンターでのうのうとするわけにもいかないだろうと思う。 行きつけの店でカウンターではなく椅子席を選んだ藤間さんの話も世間一般の反応を考えるとそういうことなんだろうと察した。 ビールとお通しが運ばれてくる。 軽くグラスを合わせて一気にビールを煽ると藤間さんがほっと息をついた。 「 おちつきますね、仕事の後のビールで 」 「 そうですね、最初はビールで。 一年中そうです 」 「 私は、仕事以外で飲むことを全くしなかったので、最初のビールがこんなに美味いって最近まで知りませんでした 」 「 自宅でも全く飲まない? 」 「 そうですね、まぁ殆ど夕飯を家で食べたことはなかったですけどね 」 「 じゃあ、家族であまり一緒の食卓を囲まなかったんだ。そこは俺と一緒ですね 」 「 菅山さんは?独り暮らしですか?」 「 そうです 」 滑らかに会話を続ける藤間さんに、 最近では二人だったがと、そう言い訳する気にもならない。 「 別れてから始めて思いました。もっと家族らしく生活して置けば良かったって 」 「 家族らしく……」 「 ええ、考えたら光と一緒に飯食ったこと数回しかないんですよ。朝も俺は食べる習慣なかったから」 「 全くのバラバラ?」 頷くと藤間さんは、 「 刺身、お勧めのものを見繕ってお願い 」 とカウンターの中の板前に声をかけた。 「 この間離婚がやっと成立しました。光と最後に話ができて、 穏やかになっていて安心しました。 夏の間に背が伸びたらしくて、俺の肩くらいまで……顔もなんか少し大人びて 」 「 高一だからな、一番伸びる時だ。 光君はもうサツキさんと暮らしてるんだろ?そろそろ学校にも戻れる頃だな 」 「 はい、停学は今週で終わるそうです。来週から学校に行けるって少し不安そうでしたが三枝先生がフォローしてくださるからって言ってました 」 「 三枝君に任せて置けばまぁ学習の方はなんとかなるだろう。 一学期の間に友達はできなかったのかな?」 「 一人二人連絡しあってる子はいるらしいので、その子たちには出てこれる日を楽しみに待ってるとは言われてるらしいです 」 「 まぁ、今の高校生はそんじょそこらのことでは驚かないから事件のこともそんな事あったな程度で流してるのかもしれないな 。 あとは本人の努力次第だろ 」 「 そうですね、 あの花澤君は退学したまま? 他校に転校したんですか?」 「 いや、転学の処置はされてないからそのままだろう。気にはしてるんだがなかなか連絡も取れなくて 」 「 そうですか 」 「 心配か?」 「 いや、光も彼はそんなに酷い人じゃない、助けて貰ったこともあるからと言ってました 」 「 大人に翻弄されたって言ったら許されるわけじゃないが、彼も違う意味で被害者なんだろうな 」 「 それで 」 藤間さんは咳払いを一つする。 「 俺は光とは他人になりました。で、父親、保護者という存在でもないのでこれからどうやって付き合っていくかと光と話し合って 」 「 話し合った?」 「 ええ、あのまま見ないふりはできないので 」 なんて身勝手なんだ。散々一緒の頃は光の思いを気がつかないふりしといて、思わず睨み付けると。 「 いや、そんなに怖い顔しないでください。何週間か考え抜いた結論なんですから。 離婚で初めてサツキとも面と向かい話し合った気がします。結婚を決めた時には俺はとにかく介護に疲れてたんで誰かと一緒に落ち着きたいってばかりで。二人には結果淋しい気持ちにさせてしまった。 高光さんのことも初めて光の口から聞きました。ずっと会ってたんですね。そんなことも知らずに。 そう言えばここ光と最後に会った時に来たんですよ。寿司が食べたいし、俺の住んでる街も見たいって言ってくれて。 光、青いもんの刺身とかあんまり得意じゃなかったんですが、ここの大将は青魚得意なんです。 美味いって鯵からコハダ、今まで口にしたことがないって鯖まで綺麗に平らげました 」 嬉しそうに話す藤間さんに俺はいささか鼻白らんだ。 「 高光の事を聞いた?」 「 高光さん、留置されてるんですね。あの事件のことで共犯者じゃないかって疑いで。 サツキはそんなことする男じゃないって言ってます。介護施設に来たのも一度きりだし。平田は他に共犯がいるのを庇ってるんだろうって。俺も介護施設に入り込む組織があるってことは聞いてますから。 今一番お金を持ってるのはあの層ですから、狙われるんでしょうね 」 「 平田が組織を庇って高光を共犯者にしてるってことか?」 「 そこまでは俺にはわかりませんが。サツキは同僚に平田と親しいのが居たって言ってましたね。その話は自分の弁護士にも話したようです 」 剣崎もその話は掴んでるんだろうな。あいつに任せればきっと何かを掴んでくる、青木の言葉が頭を過る。 「 菅山さん、光が心配してましたよ。高光さんが警察に捕まっているから菅山さんが悲しんでいるだろうって 」 「 え?」 「 今の所高光さんは接見禁止なので光は手紙書いてるって言ってました。高光さん寂しがり屋だから励ますんだと言って。 あの子はどんどん成長してます。 ますます綺麗になったし……」 「綺麗になった?」 俺が思わず眉を顰めると、慌てて首を横にふる。 「 いや、おかしいですよね、男子高校生に綺麗だなんて、そうだ、かっこよくなって 」 「 似たようなもんだよ。つまりそういう気持ちが湧いてきたのか?あなたにも 」 意地悪く尋ねると、 顔を薄っすらと赤くして言葉は口籠る。 「 後、3年です。3年経てば光も19になる。2022年には未成年の年齢が見直されて18からはもう大人です。それまでは俺はこの気持ちを温めておくことにしました。 大切にします 」 「 へぇ、光君にもその事を伝えたの?」 「 伝えました。ここで飯を食った後に海まで灯台のライトアップを見に行って、 浜辺で話しました 」 「 光君はなんて?」 「 今はそれで十分だと、ありがとうって、、そう言って俯いた横顔、可愛かったな……」 全く、惚気を聞かせるために俺をここまで呼びつけたのか。でも、光が納得できたんだったらこれで良かった。 「 良かったな 」 と藤間さんを労いながら思うことは一つだった。 おい、凌。周りはどんどん変わっていってる。 お前だけが留置所で取り残されて 良いわけがない。 必ず出てこいよ。 待ってるから、 必ず俺の元に帰ってこい。

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