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第94話 展開
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ー 展開 ー
「 おい、今夜は行くぞ 」
「 どこに…… 」
「 この間は行けなかっただろう。ちょうどよく夜も涼しくなってきたし 」
「 おでんか?」
「 そろそろ菅山も各部署のリーダーとも一献しといた方がいいだろう 」
「 そうだな、学校との引き継ぎをやりながら慌ただしくやってきたから、俺からきちんとした挨拶もしてないしな 」
「 そうそう、そういうことだ 」
やれやれ今夜は付き合うしかないかとパソコンをシャットダウンする際に画面にニュースが流れてきた。
記事の中の見た覚えのある名前の施設にリンク先をクリックしてみると、
介護施設で行われた補助金詐欺の実態を警察が掴んだというニュースだった。
介護施設に入居者の不審な転落事故から警察の捜査が入り、補助金の不正請求や虐待の事実が明るみに出た。その介護施設は色々な支援サービスを提供したように見せかけて、複数の自治体に対して巨額の補助金を不正に請求していたという事が判明。
自治体側は詐欺容疑で刑事告訴をする意向だという見出しに、
確かこの施設は藤間サツキさんが務めていたあの介護施設と一緒のグループ経営だという事に気付いた。
更に、グループ施設内での虐待と高齢者や障害者に対する詐欺や傷害も捜査の手が入っていると記事は締めくくられていた。
もしかしてこの事件はあの平田の事件に波及する?
そう考えると居ても立っても居られない俺は剣崎に連絡を取る。
今日は連絡が取れるまで粘ってやる。
大きく事件は動きそうな予感がした。
「 今夜もダメそうだな 」
青木の一言に大きく頷いた俺は、
「 どうしても今夜は剣崎を捕まえるから 」
と伝えると上着をとり事務所を後にした。
先日剣崎に久し振りに会ったときには凌の着替えを渡した。剣崎は凌が平田と共犯だという事を崩す為に本当の共犯探しに奔走していた。
詳しいことは守秘義務とやらで何も教えて貰えないが、後一息だからという連日の疲れも見せない剣崎の言を俺は信じている。
10回目の呼び出しの後、剣崎の電話に出たのは剣崎のアシストをしている男性だった。
「 警察の動きが早まったので、剣崎とは今手分けして被害者の方に面会して資料を作成しています。
なにぶんかなりの数の被害者なので手こずってはいますが、後数名で書類は整います。
その中で剣崎の調べで……いや、剣崎は最悪でも高光さんをなんとか起訴猶予にしたいと、あ、これ以上は言ってはいけないですね。
兎に角、今被害者の方と面会中ですので、後ほど菅山さんから連絡があった事を伝えます 」
俺が必ず必ず連絡をくれるよう頼んだところで男性が快諾した後に通話は切られた。
行くあてもなく車を運転する。止まっていることができなかった。とにかく動いていないと心配と恐怖とで押しつぶされそうになる。
アクセルを踏む靴底まで震えている。
大きなクラクションが鳴って慌てて意識を前に戻すと、
進行方向が赤になっている交差点に進入していた。
驚いたように車内を覗き込む横断歩道を渡る歩行者の顔、バカヤロウ!と言葉を捨てて行く営業車。
運が良いのか悪いのか、ちょうど交差点付近に停車していたパトカーにそのまま調書を受ける。
「 危ないですよ、交差点に赤で進入するなんて。あなた飲酒は?」
と言いながら薬でもやってると疑われたのか俺はそのまま近くの警察署に連行された。
何という幸運。それは凌の留置されてる警察だった。
両脇を警察官に囲まれて署内に入る。尿検査の後、簡単な質問をされ交通違反の青色切符を切られた。
警察内で大分頭が冷えた俺は署内で剣崎の姿を探した。
この建物の中に凌がいる。こんなに近いのに会えないもどかしさ。ベンチに座り天を仰いでいると、
「 何やってるんだ?」
と心底呆れたような声がした。
剣崎が大きなカバンと、
やはり大きなバックと紙袋を抱えたアシスタントを従え今迄見た中で一番真っ黒なスーツを着てそこに立っていた。
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