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第95話 希望
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ー 希望 ー
「 あぁ、良かった。探していたんだ 」
「 私をか?」
「 さっき伝言を頼んだんだが 」
と俺は後ろのアシスタントの方を見る。
大荷物を抱えたまま一つ大きく頷いたアシスタント。
「 すみません。被害者との面会が長引いて、今剣崎がこちらに着いたところなんです 」
「 それで、菅山さんは私に会う為に警察までわざわざ?」
俺はよく考えれば間抜けな理由を話す気まずさから慌てて咳払いをすると、
「 いやちょっとしたアクシデントで 」
「 アクシデント?」
「 いや、ちょっとした違反をして、大した違反じゃないが 」
とここに居た理由は簡略に誤魔化した。
「 ふぅん。違反ねぇ 」
再度呆れたような俺を眺める剣崎の視線が痛い。
「 それより高光は、凌のことは?」
剣崎は周りを見回し少し暗がりになった廊下の奥に移動しろと俺を促す。
「 警察が実況見分調書の作成を終えて送検する前にこちらの調書と示談書を今出したところだ 」
「 夕方のニュースの件はこの捜査に影響はあるのか?
平田の背後に組織があるとしたら、凌は不起訴になるか? 」
「 あの件が波及して長引く事を恐れてこちらの捜査担当者も性急に送検を決めたようだ。
平田が高光さんを共犯だと供述しているらしく向こうもその証拠の裏付けにやっきになっている。
不起訴になるかそれはわからない。担当検事の判断だからな。
だが、少なくとも私の方は起訴猶予に迄は持っていける調書は提出できた 」
「 平田のやつ、凌を共犯だなんて、そんなでたらめを……くそ。
被害者っていっても平田に脅されていた人たちは高光と面識はないんだろう?
本当の共犯は見つかったのか?」
頷くと剣崎は、
「 共犯に関して今は詳しく言えないが、
他の被害者の人たち、高光さんとはいずれも面識はないと言っている。示談書の相手は林さんだ。平田容疑者に恐喝されて金を渡していた現場に高光さんが居た事は事実だが、彼は平田を止めようとしていたし恐喝を見ていて通報しなかった事に対しては不問にするという事だ 」
と更に声を低めた。
「 とにかく、ここでこれ以上の事は話せない。最善は尽くした。
後数日で答えは出るはずだ。
菅山さんも空回りなんかしていないでいい子で大人しくしていてくれ。
私たちは高光さんとの接見があるからこれで失礼する 」
空回りといい子には盛大に引っかかるが、
その後の言葉が俺には重要だ。
「 接見……凌とこれから会うのか?」
「 そうだ 」
「 俺は、俺はだめなのか?会えないか?」
「 無理だ。まだ接見禁止は解かれてない。
とにかくあなたは待っていてあげてほしい。
後何日かできっと高光さんは帰れる 」
「 凌に、凌に待ってると、俺が待ってるから諦めるな、と伝えてくれ 」
搾り出すように伝えた言葉に鷹揚に剣崎は頷いた。
ここまで来てこの建物のどこかに居る凌に会えない。
歯ぎしりするような思いでエレベーターに向かう二人を見送る。
照明が少し落とされた廊下に立ち尽くす俺を胡乱げな視線を送る警官たちを横に俺は暫くその場を動くことができなかった。
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