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第99話 最後の日に
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ー 最後の日に ー
階段を上がり、部屋へと入る。
いつのまにか全裸になった俺たちは闇の中を抱き合ったまま縺れ合いながら絨毯の上を歩む。
寝室の扉をくぐり、
シーツの上ゆっくりと二人で重なりあってベッドに倒れこむと。
猛ったものはもうその先端は濡れていた。
キスを繰り返しながら舌でお互い肌のざわめき確かめ合う。
時に異性のようにツンと立った乳首に甘噛みを施すと体温を上げた肌は吸い付くようにお互いを縫い止める。
溶け合うほど相手を抱き、抱かれる。
唇を離さないで、一分の隙も身体に与えないで、そんなセックスを俺たちはした。
異性の交合の様に使う孔を解し、疼くその中に先を窄めた舌を入れる。
中を執拗に啜る俺の性器を袋ごと酷くねっとりとした音を立てて凌がしゃぶる。
昂ぶった凌の竿から滴る雄汁を指で掬い、囁く孔の襞に出入りする舌にそれを絡める。
青い渋みを伴ったその甘汁を唾液と共に凌の開いた坑道に垂らし込むと、舌は尻たぶを可愛がる為に一旦逃し、強請って欲しがる孔には指を深く差し込んだ。
直ぐに前立腺のこぶを見つけたその二本の指はたんたんと執拗にその原を刺激する。
喘ぎ声に悲鳴が混じると、更に強くそこを何度も指先で押し込める。
「 ここだろ、いいょ、声、聞かせろよ 」
「 ぁあ! いく、いくから!
いい……いい、すごくすごくいい 」
ボロボロ涙を零し、
もう俺のデカくなった男根を貪ることもできなくなった凌はそれを欲しいと強請って腰を揺する。
凌の汗まみれの全裸の身体を裏返し俺の太ももに跨がらすと、淫毛に絡まったそれを口を解きひどく欲しがる孔にじりじりとねじ込んでいく。
甘い悲鳴と熱い吐息が俺の唇を塞ぐと凌は一気に俺をその熱い胎内に収めて切さきった。
辛そうに蹙めた眉を舐め、瞼にキスを落とす。
挿れたまま動けない体躯をさすりながら俺は容赦なく太ももをのし上げて思うままに突き上げた。
深く奥まで侵していく全ての快感は愛を知る心と共にどんどん昂まる。
「 あぁ、いい……そこ、そこ…もっときて、きて!」
「いいのか? ここだろ……あぁ、いい顔してる……もっとか?」
精子を撒き散らし吐精を求めるだけじゃない交わりは、心を昇華し肉欲だけの交わりは限りなくゼロに近く、二人で共に与え合うセックスは精神の限界まで快感に満たされる。
愛し合うっていうのは身体を奪い合うんじゃなくて与え合うんだと何回も確認する。
漏れだすものをそのままに、拭うこともせず濡れた肌を温めながら何回もお互いの体位を変えて快感を昇華する。
「 いゃ、そこ……おかしくなる!
あぁ、ぁ、、、いやぁ 」
「 おかしくなっちまえ、
俺のもんだろ……
狂っちまえ、 ょ 」
うん……
声にならない喘ぎが耳を塞ぐ。
粘膜まで一つになるような、境界線の見えない雄同士の行為はお互いが一つの塊だと意識するまで延々と続く。
起きては探り合い、うとうとしながらもまだ確かめ合う。
萎えても精を漏らしても挿入したまま、互いの下の毛は絡まるほど濃厚に結びつき、凌の腸内には俺の印が象られる。その俺の型ちになった性器はもう元に戻る事はないだろう。それほど強く強靭に覚えあった。
ーーーーーーーーーー
雨の上がった早朝はブラインドの隙間から陽光と埃を拭ったグリーンの葉が反射して薄い黄緑色の縞をシーツに描いている。
篭った気配を逃すため少し開けた窓から気持ちの良い風が柔らかく入ってくる。
俺は隣で眠るマサキさんを暫し見つめていた。
夜中にやってきた俺を抱きしめてくれた腕は今は静かにシーツに彷徨い、溶けるほど熱い眼差しは瞼に穏やかに覆われている。
警察から帰る時にあんなに勝手な事を言った俺を何も言わずに包んでくれた。
想像以上に押さえの効かなかったお互いの体躯を隣のベッドに横たえたのはほんの1時間ほど前だった。
そう言えば未だマサキって名前の漢字を知らないな……
起きたら一番に教えてもらおう。
そんな事を考えながら愛する男のとなりに寝そべるとやがて俺にも二度目の睡魔がやってくる。
腰から下をシーツで覆った二人の裸の身体にささやかに風が纏わりつく。
幸せだな、と感じた時に俺にも眠りが訪れた。
二度目の眠りから覚めると誰かと電話するマサキさんの声が隣の部屋から聞こえてきた。
足元に畳んであった服を着る。一番上に置いてあった財布も持って寝室を出るとフライパンを片手にカウンターの上のスタンドに置かれたスマホと会話している姿が目にとまる。
濃いグレーのスーツのズボンに薄いグレーのワイシャツの袖を肘まで捲り、ハムエッグを皿に盛り付けてる姿は、俺の好きなマサキさんの家での姿。
俺はこれから伝えなきゃならないことを噛み締めて大好きなその姿を好きなだけ眺めていた。
通話を終えると声がかかる。
「 おはよう、腹減っただろう。
飯と味噌汁もあったまってるから冷蔵庫からラップのかかってる器の漬物とタッパに入ったキンピラ出してくれないか 」
二人のいつもの朝のように話を始めるマサキさんの言葉を遮り俺は
マサキさんに昨夜から聞きたかった事を尋ねた。
「 マサキさん、マサキさんの名前。
漢字はどう書く?」
「 俺の名前の?
マサキの漢字か?」
「 そう、俺、知らなかったから。
留置所でずっと考えてて、知ってる漢字を並べたりしてた。
どんな字なの?」
マサキさんは味噌汁をよそっていた手を止めて俺の方に近づくと、
「 そうか、未だ知らなかったんだな……」
と俺の身体をそのよそいきの糊の効いたワイシャツに閉じこめる。
「 マサキの文字は一文字で、木偏に正しいという字だよ。
真っ直ぐって意味らしい。
俺にはあんまり似合わないかな 」
くすりと笑いながら俺を一回強く抱きしめた。
「 さあ、これでいいか?わかって安心したか?
飯にしよう」
俺はマサキさんの腕から抜け出るとキッチンカウンターの上にあった白い紙に鉛筆で習った字を書いてみた。
「 木偏に正しい……柾さんの漢字なんだ 」
「 知ってたか?この漢字 」
「 知らなかった、こんな漢字あったんだ 」
「 ああ、木の名前だよ。柾っていう。柾目という言葉が良く使われる、木を切った時にその木目が真っ直ぐなものをそう言うんだ 」
紙に書いた名前を俺は丁寧に丁寧に指でなぞる。
その俺を不思議そうに見やる柾さんが俺に掛けた言葉。
「 凌、どうした?何考えてる?」
食卓の上には彼が用意してくれた朝ごはんがここに居てもいいと暖かく包むように俺を誘う。
今から俺はこの心地よい暖かい居場所を……
「 そう言えばデッキにも柾が植えてあったかもしれないな 」
とテラス窓を開けて外に出た柾さんが連いてこない俺を振り返る。
「 凌、どうした?」
何かを察したように柾さんの声が低くなる。
俺は柾さんに言葉を告げる乾いた唇を自分の舌で濡らした。
「 柾さん聞いてほしいことがあるんだ。
俺、自信がないまま柾さんと一緒にいられない。
恥ずかしい俺じゃ……ダメなんだ。
何にも自慢できるものもない俺じゃ、そばにいちゃダメだ。
ごめん、ごめんなさい、
ひとりで、ひとりで、やり直したい。今までの俺を。
やり直せないかも知れないけど。
でも今は、ひとりじゃないとダメなんだ……
柾さんが好きだよ。
あなたから貰ったものはここにある 」
俺は自分の胸に手を当てる。そして、黙ったままその眼を見開いて俺を見る柾さんに最期の言葉を告げた。
「 大切にする。
俺は誰にも貰ったことのないものだから、
本当に大切に大事に、する。
柾さん好きです。
でも、、、
さよなら……」
慌てたように室内に戻る柾さんに最期の言葉をそう投げかけると後ろを見ずに玄関を開けた。
追いかけてくる柾さんを振り切って靴も履かないまま階段を駈け下りる。
全力で走る俺の背中に柾さんの叫ぶ声が追いすがる。
追いついて欲しい止めて欲しい、でも止まれない、追いつかれないように俺はただひたすら硬いアスファルトの上を走った。
足の痛みはもう耐えられないほどだったけど、走るのをやめられなかった。
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