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第9話

 落涙と共に落とされる言葉をゆっくり拾い集めてみると、いきさつが見えてきた。彼は確かに納屋で怪我をしていた。しかしバランスを失った重い物が降ってきたのではなく、人為的に振り落とされた杵で潰されたのだった。私が彼を気に入っている事を良く思っていない数人が徒党を組み、よってたかって彼を抑え込んで……。  痛かったろうに、悔しかったろうに、悲しかったろうに、彼は全てを私から隠していた。私は彼をひしと抱き寄せ、叱りながらも謝り続けた。天井からぶら下がった豆球が、彼の濡れた頬と唇をやけに暖色に照らすものだから、私は償いたい焦り、同情、恋慕を混同してしまうにそう時間はかからなかった。  蕾の花びらを一枚一枚剥くように、彼の衣服を剥いでいくにつれ、痛々しい傷跡が目についた。内出血の濃淡から、蹴られるのは日常なのがみてとれた。古い物は火かき棒の痕だろうか。肉がひきつれているのは鋸か。何の痕なのか、温室育ちの私には想像がつかない生傷もあった……。私は茶碗を握りしめた。あの頃もっと早くに気づいていれば、彼の身体の傷や心の痛みは格段に減らせていたはず。 「ごめんよ……」  蛍しかいない川辺に向かって、私は謝っていた。そんな私の謝罪をすくいとるように、おもむろに誰かの手がすいと茶碗を取った。

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