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第10話

 傍らへ首を曲げると、茶碗ごと私の手を持った彼が立っていた。やや上目遣いのまま、彼は頭を軽く振った。私が自責に陥ると、かならず彼は私の片手をとってそうするのだ。再び現れた幻の彼の腰へ、私は躊躇なく腕を回した。蛍の光が彼の鎖骨の前を通り、彼の夜着の乱れを明るみに晒す。 「どれぐらい治ったかな。増えてはないだろうな」  最初こそ字面通りの意味だったのに、いつしか誘いの言葉と化した台詞。彼は瞳を濡らすと、頬を赤らめ、私へしなだれてくる。私は彼の額にそっと唇を落とすと、それを皮切りに瞼、眉間、眉、そしてまた瞼と口づけ、鼻頭の続け様に口を吸った。するとどうだろう、また彼は私の前から消えてしまった……。

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