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第11話
私は胃の底から空気を押し出すように、じっくりと息を吐いた。夢の中とはいえ、どうしてここに留まっているのかわからなくなってきている。冷静になろうとは思うのだけれど、何故か上手く出来ない。脳に蜘蛛の巣が張り付いている気がする。無理に糸をむしれば、粘着質な糸にくっついてそのまま私の脳もぐちゅりと崩れてしまうように思う。
「まただ……」
私は喉仏を撫でた。私はまた喉が渇いていた。生唾を飲み込んでみて、明瞭に自覚する。
「遠慮なさるな。もう一杯……どうかな」
私は上半身をくねって、背後へ視線を投げた。思った通り、そこには老爺が立っていた。老爺が差し出す茶碗をみて、私は或る一つの考えに至った。
「もしかして。川の水を飲むと……想い人に会えるのですか」
老人は私からみたたび銅貨を得ると、茶碗を手に持たせてくれた。茶碗の水面に浮かぶ天の川の傾きに変化は無かった。随分と長居をしているつもりだったのに、数分も経っていないのだろうか。夢の中で時間を気にするなんて、馬鹿馬鹿しいはずなのに、私はつまらない事を気にしていた。
「こっちの水は甘いよ」
詠うように言うと、次に老爺は川を顎でさす。
「あっちの水は苦いから、勝手に飲んではいけない。苦い苦い思いをするよ」
同じ水なのに? と私はあからさまに怪訝な顔をしてしまった。老爺はくつくつと体を揺らして笑う。
「同じ事でも、思い出し方次第で甘くも苦くもなる。人の記憶とはそういうものよ……」
老爺の返答を解せないまま、私は三杯目を一気に飲み干した。
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