12 / 13
第12話(リデル目線)
「……ジェームズ……」
これでもリデルは長い年月を生きている。残酷な死だって何度も目にしてきた。普通の人間のように、家族が焼け死んだ現場を見て取り乱すこともない。
でも……だからと言って、悲しみがなくなるわけではない。
「ねえ先生……ジェームズは……? ジェームズはどこ……?」
アビーが服の裾を掴みながら、涙混じりに尋ねてくる。
さすがにすぐには答えることができず、リデルは言葉を選びながら小さく口を開いた。
「ジェームズは……」
その時だった。
「ぶはあぁっ! 危なかったぁぁ!」
「…………えっ?」
積み上がった木材の山が崩れ、中心から人間の手が生えて来た。ガシッと柱を掴んだかと思うと、隙間から煤で汚れた顔がひょっこり現れた。
「あ、お帰り、師匠。なんか大変なことになっててすいません」
「ジ、ジェームズ……!?」
「……って、のぉぉ! 落ちる、落ちる! 師匠、助けてください~!」
ハッとしてリデルはジェームズに駆け寄った。足場の悪い木材を踏み分け、手を掴んでジェームズを引っ張り上げる。
「あ~、ありがとうございます、助かりました」
「ジェームズ……きみ、よく無事だったね」
「アビーの落とし穴に入ってたんスよ」
と、ジェームズは笑った。
「穴、塞ぐ途中でよかったっス。完全に塞いじゃってたら俺、今頃丸焼けでした」
「落とし穴に……?」
「ええ。土の中に隠れていれば、上が燃えててもなんとかやり過ごせますからね。それより師匠、はいコレ」
ジェームズがシャツの下から分厚い本を出す。それはリデルが大切しているあの魔導書だった。
「どこも焦げてないでしょ? これだけは死守しなきゃと思って、身体張って守ったんスからね」
「…………」
「それより師匠、今日という今日は魔法使いにしてくださいよ! こんな役に立つ弟子、なかなかいないでしょ。もう二年も待ったんだから、いい加減俺にも印を……」
最後まで聞いている余裕はなかった。リデルはジェームズを抱き寄せ、その額に唇を押し当てた。
不意の動作に反応できなかったのか、ジェームズは目を見開いたまま固まってしまった。
ともだちにシェアしよう!