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第12話(リデル目線)

「……ジェームズ……」  これでもリデルは長い年月を生きている。残酷な死だって何度も目にしてきた。普通の人間のように、家族が焼け死んだ現場を見て取り乱すこともない。  でも……だからと言って、悲しみがなくなるわけではない。 「ねえ先生……ジェームズは……? ジェームズはどこ……?」  アビーが服の裾を掴みながら、涙混じりに尋ねてくる。  さすがにすぐには答えることができず、リデルは言葉を選びながら小さく口を開いた。 「ジェームズは……」  その時だった。 「ぶはあぁっ! 危なかったぁぁ!」 「…………えっ?」  積み上がった木材の山が崩れ、中心から人間の手が生えて来た。ガシッと柱を掴んだかと思うと、隙間から煤で汚れた顔がひょっこり現れた。 「あ、お帰り、師匠。なんか大変なことになっててすいません」 「ジ、ジェームズ……!?」 「……って、のぉぉ! 落ちる、落ちる! 師匠、助けてください~!」  ハッとしてリデルはジェームズに駆け寄った。足場の悪い木材を踏み分け、手を掴んでジェームズを引っ張り上げる。 「あ~、ありがとうございます、助かりました」 「ジェームズ……きみ、よく無事だったね」 「アビーの落とし穴に入ってたんスよ」  と、ジェームズは笑った。 「穴、塞ぐ途中でよかったっス。完全に塞いじゃってたら俺、今頃丸焼けでした」 「落とし穴に……?」 「ええ。土の中に隠れていれば、上が燃えててもなんとかやり過ごせますからね。それより師匠、はいコレ」  ジェームズがシャツの下から分厚い本を出す。それはリデルが大切しているあの魔導書だった。 「どこも焦げてないでしょ? これだけは死守しなきゃと思って、身体張って守ったんスからね」 「…………」 「それより師匠、今日という今日は魔法使いにしてくださいよ! こんな役に立つ弟子、なかなかいないでしょ。もう二年も待ったんだから、いい加減俺にも印を……」  最後まで聞いている余裕はなかった。リデルはジェームズを抱き寄せ、その額に唇を押し当てた。  不意の動作に反応できなかったのか、ジェームズは目を見開いたまま固まってしまった。

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