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第2話

ミーンミンミン… 直線的で、じりじりと焼け付くような暑い日差しが肌を刺す。 真っ青な空を支配する、綿飴のような入道雲。 朝から晩まで、その存在感を示す蝉の声。 ……大地、気に入ってくれるかな…… 待ちに待った花火大会当日。 僕は浴衣を身に纏い、慣れない下駄を履いて、大地の住むアパートへと向かった。 「……悪い、急な仕事が入った」 玄関のドアが開かれるなり、大地が申し訳無さそうな顔を出す。 その言葉を聞いた瞬間、それまで高まっていた気持ちが一気に落ちる。 「……え」 「今回は外せない、大事なカメラの仕事なんだよ」 すっかり身支度を済ませた大地は、玄関に置かれたバックを背負った。 ……大事な、って…… 僕よりも…そんなにカメラが大事……? 浴衣の袖口を掴むと、唇を尖らせて俯く。 「……そんなに大事なら 早く行っちゃえ、…ばか……」 少し震えた声でそう言い放つと、溢れ零れそうになる涙に堪える。 そんな僕の頭に、大地の大きな手のひらがぽんと置かれる。 「拗ねるなよ……直ぐ帰るから」 「……」 「じゃ、行ってくる」 ぽんぽんとした後、僕の横を通り過ぎ、大地の手が離れた。 ……やだ、行かないで…… 下瞼の縁に溜まった涙が溢れ、ぽろりと零れ落ちる。 「……ばか……」 大地の為に、…浴衣着て 穴場まで、調べたのに…… 下駄を脱ぎ、誰もいない部屋へと上がる。 「……」 ……直ぐって、何時……なんだよ… 大地のいない部屋は、凄く静かで…何だか寂しい。 台所のシンク内に、水を張ったコップがひとつ。 余程急いでいたのだろう……蛇口からぽたぽたと水が垂れている。 それをキュッと締めると、和室のリビングへと振り返った。 小さなローテーブル。 その上に、A4サイズの茶封筒。 畳に足を踏み入れそこに近付くと、その封筒を拾い上げる。 ……忘れもの……? 糊付けされていない封を開け 中を覗いて見る。

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