6 / 70

ここあとなみだ

美月(みつき)side】 ぼくは、よごれてない。 よしとらさんが、ほんとうって言ったから、ぼくはよごれてないんだ。 じゃあ、ぶらんけっとも、さわってていい? この、ふかふかでおおきいイスも、すわってていい? かーぺっと、またあるいてもいい? 「熱いから、少し冷ましときました」 あ、ときとうさん、なにかもってきた。 よしとらさんにわたしてる。 コップから、ゆげが出てる。 「美月、ココア飲むだろ?」 よしとらさんが、コップをぼくのかおのまえにもってきた。 ・・・あ、あまい、におい! このにおい、おぼえてる・・・ずっとまえに、ちょっとだけ、おかあさんがくれた、くろくてあまいのににてる! あれ、なんだったっけ・・・たぶん、ちょこ、って言ってた。 いろも、ちょこににてる。 「こ・・・ここぁ・・・?」 「ココア。甘いの嫌いか?」 きらいじゃないっ! ちょこ、おいしかったもん! ぼく、あまいのきらいなんかじゃない! ちょっとでもいいから! あまいのほしいっ! 「そんなに首振ったら取れるぞ。わかったから。美月は甘いの好きなんだな」 よしとらさんが、やさしくわらった。 あまいの、すきなんだな? すきなんだな、って? 「すきなんだなって・・・なんですか?」 よしとらさん、きいていいって言ってたから、またきいちゃった。 どおしよう、かわいいとおなじくらい、むずかしいことばだったら。 また、よしとらさん、こまっちゃうかな・・・。 「好きっていうのは・・・嫌いの反対だ」 きらいの、はんたい。 すき。 「ぼく、あまいの、すきっ!・・・です」 「じゃあココアも好きだな。ほら、ゆっくり飲めよ?」 よしとらさんから、ここあのコップをもらった。 あ、あったかい。 ここあは、のむやつなんだ。 お水とおんなじようにのめばいいの、かな。 「・・・んくっ、ふぁっ!」 「美月!ゆっくりって言ったろ?火傷しなかったか?」 「んーっ、あまぁい」 あったか、あまい。 くちの中がずっとあまい。 ふぁーってなる。 ここあ、すき! 「はは、うまいか?」 「ぅまい?」 「おいしい?」 「おいしい!すごく!」 もうちょっと、のんでもいい、かな。 もうひとくち、だけ・・・。 「・・・んく・・・んっ・・・んくっ」 「美月、ゆっくりだぞ」 「ぷぁっ・・・んふー」 ごめんなさい、ちょっとって、おもってたのに、いっぱいのんじゃった。 よしとらさん、ずっとわらってる。 ぼく、ほしとらさんのわらってるかお・・・すき。 よしとらさんの、やさしいこえも、すごくすき。 よしとらさん・・・すき、いっぱいすき! 「よしとらさん、すき!」 「──っ!?」 よしとらさん、びっくりしたかおしてる。 かお、手でおさえて、こっち見てくれなくなった。 よしとらさん、どおしたの? ぼくが、すきって言ったから? 言っちゃだめだった? よしとらさんは、ぼくにすきって言われるの、やだったの? よしとらさん・・・ぼくのこと、きらい、なの・・・? 「・・・み、美月!?なん、何で泣いて、ちょ、どうした?ココア熱かったか?やっぱ喉火傷したんじゃないか?おい時任!水!」 よしとらさんが、ここあのコップをとって、まえにあるとうめいなテーブルにおいた。 ここあ、もおのんじゃだめなの? ここあ、いっぱいのんじゃったから、きらいなの? 「・・・ょしとら、さん・・・っ、は、ぼく・・・のっ、ことっ・・・きら・・・ぃっ・・・」 「好きに決まってんだろ!」 すきに、きまってんだろ? すきに、きまってる、の? よしとらさん、ぼくのこと、すきってきまってるの? ほんと、に・・・? 「よしとら、さ・・・ふぇ?」 よしとらさんが、ぼくにくっついて、ぼくのこと、ぎゅってしてる・・・。 よしとらさん、おおきい。 あったかい。 いいにおい・・・。 ぼく、こんなにやさしくて、つよく、ぎゅってしてもらったの、はじめて。 うれしいのに、こころがきゅーってなって、くるしくないのに、くるしくて・・・。 なみだが、とまらなかった。

ともだちにシェアしよう!