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ここあとなみだ
【美月 side】
ぼくは、よごれてない。
よしとらさんが、ほんとうって言ったから、ぼくはよごれてないんだ。
じゃあ、ぶらんけっとも、さわってていい?
この、ふかふかでおおきいイスも、すわってていい?
かーぺっと、またあるいてもいい?
「熱いから、少し冷ましときました」
あ、ときとうさん、なにかもってきた。
よしとらさんにわたしてる。
コップから、ゆげが出てる。
「美月、ココア飲むだろ?」
よしとらさんが、コップをぼくのかおのまえにもってきた。
・・・あ、あまい、におい!
このにおい、おぼえてる・・・ずっとまえに、ちょっとだけ、おかあさんがくれた、くろくてあまいのににてる!
あれ、なんだったっけ・・・たぶん、ちょこ、って言ってた。
いろも、ちょこににてる。
「こ・・・ここぁ・・・?」
「ココア。甘いの嫌いか?」
きらいじゃないっ!
ちょこ、おいしかったもん!
ぼく、あまいのきらいなんかじゃない!
ちょっとでもいいから!
あまいのほしいっ!
「そんなに首振ったら取れるぞ。わかったから。美月は甘いの好きなんだな」
よしとらさんが、やさしくわらった。
あまいの、すきなんだな?
すきなんだな、って?
「すきなんだなって・・・なんですか?」
よしとらさん、きいていいって言ってたから、またきいちゃった。
どおしよう、かわいいとおなじくらい、むずかしいことばだったら。
また、よしとらさん、こまっちゃうかな・・・。
「好きっていうのは・・・嫌いの反対だ」
きらいの、はんたい。
すき。
「ぼく、あまいの、すきっ!・・・です」
「じゃあココアも好きだな。ほら、ゆっくり飲めよ?」
よしとらさんから、ここあのコップをもらった。
あ、あったかい。
ここあは、のむやつなんだ。
お水とおんなじようにのめばいいの、かな。
「・・・んくっ、ふぁっ!」
「美月!ゆっくりって言ったろ?火傷しなかったか?」
「んーっ、あまぁい」
あったか、あまい。
くちの中がずっとあまい。
ふぁーってなる。
ここあ、すき!
「はは、うまいか?」
「ぅまい?」
「おいしい?」
「おいしい!すごく!」
もうちょっと、のんでもいい、かな。
もうひとくち、だけ・・・。
「・・・んく・・・んっ・・・んくっ」
「美月、ゆっくりだぞ」
「ぷぁっ・・・んふー」
ごめんなさい、ちょっとって、おもってたのに、いっぱいのんじゃった。
よしとらさん、ずっとわらってる。
ぼく、ほしとらさんのわらってるかお・・・すき。
よしとらさんの、やさしいこえも、すごくすき。
よしとらさん・・・すき、いっぱいすき!
「よしとらさん、すき!」
「──っ!?」
よしとらさん、びっくりしたかおしてる。
かお、手でおさえて、こっち見てくれなくなった。
よしとらさん、どおしたの?
ぼくが、すきって言ったから?
言っちゃだめだった?
よしとらさんは、ぼくにすきって言われるの、やだったの?
よしとらさん・・・ぼくのこと、きらい、なの・・・?
「・・・み、美月!?なん、何で泣いて、ちょ、どうした?ココア熱かったか?やっぱ喉火傷したんじゃないか?おい時任!水!」
よしとらさんが、ここあのコップをとって、まえにあるとうめいなテーブルにおいた。
ここあ、もおのんじゃだめなの?
ここあ、いっぱいのんじゃったから、きらいなの?
「・・・ょしとら、さん・・・っ、は、ぼく・・・のっ、ことっ・・・きら・・・ぃっ・・・」
「好きに決まってんだろ!」
すきに、きまってんだろ?
すきに、きまってる、の?
よしとらさん、ぼくのこと、すきってきまってるの?
ほんと、に・・・?
「よしとら、さ・・・ふぇ?」
よしとらさんが、ぼくにくっついて、ぼくのこと、ぎゅってしてる・・・。
よしとらさん、おおきい。
あったかい。
いいにおい・・・。
ぼく、こんなにやさしくて、つよく、ぎゅってしてもらったの、はじめて。
うれしいのに、こころがきゅーってなって、くるしくないのに、くるしくて・・・。
なみだが、とまらなかった。
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