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おかわりと天使
【麗彪 side】
「よしとらさん、すき!」
大きめのカップを両手で持ち、ココアを必死に飲む美月を微笑ましくも少し心配しながら見守っていた俺は、思わぬ告白を受けた。
俺は、恐らく人生で初めて、赤面したと思う。
好き、と言われてこんなに嬉しかったのも初めてだ。
ずっと美月からそらさなかった視線を咄嗟にそらしてしまった。
少し落ち着いてから美月に視線を戻すと、さっきまで嬉しそうにココアを飲んでいたはずが、大きな瞳いっぱいに涙を溜めている。
なんでだ。
焦った、血の気が引くほど。
ココアで喉を火傷したんだと思い、時任 に水を頼む。
あの時任が慌ててキッチンへ走って行った。
滅多に見られない光景だ。
いや、そんな事より美月・・・。
「・・・ょしとら、さん・・・っ、は、ぼく・・・のっ、ことっ・・・きら・・・ぃっ・・・」
「好きに決まってんだろ!」
心の声がそのまま口から出た。
こんな言い方じゃ美月がまた怯えるかもしれない。
それにしても何でそんな事・・・あ、好きと言われて視線をそらしたからか?
美月に好きと言われて、俺が拒絶したと思ったのか?
俺が悪かった、悪かったから。
頼むから泣かないでくれ。
美月の大きな瞳から、純粋すぎる雫が溢 れそうになる。
・・・見てられねぇ。
思わず、美月の華奢な身体を抱き寄せる。
嫌がるか、と不安になったが、意外にも美月は大人しかった。
それどころか、俺のシャツを控えめに掴んでくる。
か・・・可愛過ぎる。
「何やってんですか」
「ちが・・・いや、これは・・・誤解だ」
水を持ってきた時任に睨まれる。
おい、俺は不純な動機で美月を抱き締めてるんじゃないぞ。
美月が泣き止むまであやそうと思ってこうやって・・・。
「火傷は?」
「いや、すまん、違う、と思う」
悪いのはココアじゃなく俺だ。
「・・・ょし、とらさ・・・」
「なんだ?」
美月が声を上げたので、抱き締める力を弛める。
まだ潤んではいるものの、涙は止まったようだ。
良かった・・・。
「・・・・・ここぁ、もぉちょっと・・・のんでも、いぃですか・・・?」
「ああ」
「おかわりありますよ」
ガラスのローテーブルに置いたカップを取り、美月に返してやる。
それを受け取りながら、時任の言葉に首を傾げた美月。
「おかわり・・・って、なんですか?」
育ち盛りがおかわりを知らないのか。
「このココアをもう1杯飲めるってことだ」
「もういっぱい!?・・・で、でも、よしとらさんの分、なくなっちゃぅ・・・?」
ココアがもう1杯飲めるってだけで表情がぱあっと明るくなった。
何でそんなに可愛いんだ。
「全部美月の分だから、好きなだけ飲んでいい」
「すきなだけ・・・」
ココア飲み放題ってだけでこんなに喜ぶとは。
ひとしきり感動してから、美月はココアの続きを飲み始めた。
それにしても、これで15か・・・。
身体も言葉も心も、明らかに未発達。
恐らくまともに教育を受けてはいないだろう。
「なあ美月、学校は行ってたのか?」
「んく・・・がっこう?」
行ってないか。
「いつも何してたんだ?」
「いつも・・・おうちに、いました」
つまりオカアサンは、美月を監禁状態でネグレクトし、暴力を振るった挙げ句に売ったってことか。
これは消されても文句言えねぇよなぁ。
もし美月にオカアサンのその後を聞かれたら、あの世 に逝 ったとでも言っておこう。
「家で、何してた?」
「ぇと・・・えほん、よんでました」
絵本か。
明日にでも本屋へ行って、美月が選んだやつを片っ端から買ってこよう。
「あと、おそうじと、おせんたく」
「それはもうやらなくていい」
掃除洗濯なんか駿河 にやらせときゃいい。
俺の言葉を聞いて、美月がきょとん顔をした。
だから、可愛いのはもう分かったから。
「どうした?」
「ぼく、おせんたく、すき・・・」
「・・・手伝うくらいなら」
酷い育てられ方したのに、素直で優しく純粋。
洗濯の手伝いが出来ると聞いて、嬉しそうにココアを飲んでいる。
そんな美月を見ながら、天使がいたらこんななんだろうと、思った。
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