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カチューシャ

麗彪(よしとら)side】 最悪だ。 予期していた通り、親父が美月(みつき)を気に入りやがった。 しかも・・・。 「ぱぱー」 「みっちゃーん」 美月が完全に懐いてしまった・・・。 なんでだ美月、あれ程約束したのに・・・。 「すごぉいっ!かっこいー車いっぱい!」 「みっちゃんは車が好きかぁ。どれでも好きなの選んで遊びなさい。全部みっちゃんにあげようね」 親父も完全に美月にハマってやがる。 そしてさり気なく俺から美月を引き離そうとしてんの、分かってるからな。 「パパ、俺にも戦車買ってくれよ」 「よっちゃんは可愛くないから、可愛げが出るようにこれをあげよう」 よっちゃんとか呼ばれんのいつ以来だよ。 きめぇ。 しかも寄こしてきたのは、犬だか猫だかのもさもさした耳が付いたカチューシャ。 ・・・とりあえず美月に着けさせよう。 「こらこら、それはよっちゃんのでしょ」 「麗彪さんかわいいー!」 美月にカチューシャを着けさせようとしたが親父に奪われ、流れるような動きで俺の頭に装着しやがった。 屈辱以外の何者でもねぇ。 だが美月が写真を撮りたがるので、美月の気が済むまで外す事が出来ない。 「もおいいか?」 「まって、まちうけにせってい、してるから・・・」 「それはいいけど、外していいか?」 「どおして?」 「・・・・・・」 俺がカチューシャを外そうとすると、物凄くしょんぼりするの、やめてくれないか。 ・・・くそ、(はか)りやがったな親父。 「みっちゃんも着ける?」 「ぼくのもある?」 「ウサ耳のがあるよ」 どこから取り出したのか、白いウサ耳の付いたカチューシャが親父の手に。 よし、着けろ、カメラは起動した。 「ねえ、ぼくウサギになった?」 「ああ、兎の妖精になった」 「みっちゃんは何やっても可愛いなぁ」 ウサ耳を着けた美月に親父コレクションから好きなラジコンカーを選ばせてから、動きにくそうな振袖を着替えさせるために俺の部屋へ連れて行った。 これでやっと親父から美月を引き離せる。 そう思って安心し、俺は失念していた。 美月がウサ耳カチューシャをしているのと同様に、俺もカチューシャをしているという事を。 「はい、ウサ耳と同じ白のふわふわフリースですよ〜。屋敷(ここ)は床暖ないから、このもこもこルームシューズも履きましょうね〜」 「麗彪さんはグレーのスーツに着替えますか?それ、ハイイロオオカミでしょ」 「・・・何も言うな時任(ときとう)」 結局、風呂に入るまでカチューシャを外さず過ごす事になった。 美月が喜ぶなら、駿河(するが)時任に何を言われようが関係ねえ。 他の奴らには「見たら目を潰す」と目で伝えたので、誰も俺の目から上を見ようとする奴はいなかった。

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