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花と妖精

麗彪(よしとら)side】 雲ひとつない快晴。 その蒼に映える、可憐な桜色。 「妖精ってのは実在したんだな」 「よーせい?魔法の世界にいる妖精?どこ?どこにいるの?」 お前だーと言って、後ろから美月(みつき)を抱きしめる。 本気で妖精を探していたようで、ひゃあ、と小さな悲鳴を上げた。 可愛い・・・。 「ぼく、ちがうのに・・・」 「元妖精の現天使かもしれないだろ」 「げんてんし・・・?」 小首を傾げる姿も可愛いな。 今日の美月はピンクベージュのデニムサロペットに白のブルゾン、お気に入りの白いスニーカーでお散歩スタイルだ。 暖かくなってきたし手を繋いでのんびり花見を・・・と思って出てきたのだが、残念な事にオマケが付いてきてしまった。 「麗彪さん、美月を放してください。変態が感染(うつ)ったらどう責任取ってくれるんです」 「黙れ時任(ときとう)、そして帰れ」 「そんな酷い事を言うもんじゃあない。さっちゃんはね、みっちゃんを心配して付いてきてくれてるんだから。よっちゃんの事もついでに護ってくれるんだし」 親父、何故いる・・・。 時任が付いてくるのは百歩譲って仕方ないとしても、親父はいったい何処から湧いて出たんだ・・・。 因みに、親父の言うさっちゃんとは時任の事だ。 名前が(さとる)だから。 「さすがのさっちゃんも親父までは護りきれねぇよ、帰れ。なんなら時任も一緒に帰れ」 人払いした場所で誰にも邪魔されず美月とふたりきりで花見をしようと思っていたのに邪魔をするんじゃねぇ・・・! 「みんないっしょだと楽しい、ですよ?」 「みっちゃんは優しいねえ」 「駿河たちももうすぐ来る」 「・・・お前ら、天使の(はか)らいに感謝しろよ」 結局、まあまあな人数が集まって花見(えんかい)をする羽目になった。 美月が楽しそうだから許したが、一瞬でも嫌がったり疲れた素振りを見せればすぐ連れて帰ってふたりきりで・・・。 「麗彪さん、眠い?お酒飲んだから?だいじょぶ?」 「美月が元気なら俺は大丈夫だ」 俺の方が美月に心配されてしまった・・・。 ・・・しまった、大丈夫じゃないと言えば良かった。 そうすれば美月が俺を介抱してくれたかもしれない。 「ね、夜になったらあかりをつけて、よざくら、見るんだって。ぼく、お花見も、よざくらも、初めてでうれしいっ!」 「よし、いっぱい楽しもう。今年の桜は美月のために咲いてるからな」 己の(よこしま)な考えは一瞬で消し去り、また美月のハジメテに立ち合えた事を神に感謝する。 本物の桜を見たのも初めてだった美月。 今まで与えられなかった事が多過ぎる。 それでも、初めて見て、触れて、知って、何故自分に与えられなかったのかと嘆く事なく、ただ素直に喜ぶ姿が愛おしくてたまらない。 「なぁ美月、抱きしめさせてくれ」 「うん!」 美月が迷わず俺の胸に飛び込んでくる。 幸せだ・・・! 周りの奴らが何を言おうと、そのまま帰るまで美月を放さなかった。

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