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誓いのキスと獣

麗彪(よしとら)side】 美月(みつき)がお姫様になりたいと言ったので、駿河(するが)が嬉々としてドレスを発注。 時任(ときとう)は美月の髪をいじりながら、ドレスに合うヘアアレンジを考えている。 俺は・・・どうする。 美月がお姫様なら、俺が王子様か? いや、どう考えても王子様って柄じゃない。 中学時代のあだ名が魔王陛下だぞ。 天使でお姫様な美月には明らかに相応しくない。 「美月、お姫様になりたいのか?」 「ぇと、あの・・・なり、たぃ・・・です」 何で急にお姫様なんだ。 オムライス美味しいって言って可愛くて、頬っぺたにケチャップ付けて可愛くて、それで何でお姫様になりたくなったんだ・・・。 「何でなりたいのか、聞いてもいいか?」 「・・・ぁ、ぇと、ぼく・・・おひめさまになったら、けっこんの、ちかいのきす、できるかもって、おもって・・・」 けっこんの・・・ちかいの・・・きす・・・だと・・・!? 「誰とするんだ美月っ!?」 焦って美月の華奢な肩を掴みながら大声を出してしまった。 びくっと硬直し、大きな瞳を更に大きく見開いて、恐怖に(おのの)いている美月。 ・・・しまった、恐がらせた。 「ごめん、美月、怒ってるんじゃないんだ、大声出して悪か・・・」 「ゃっぱり・・・ぼくじゃ、だめ・・・よしとらさんと・・・けっこん・・・できないの・・・」 大粒の涙をぽろぽろ(こぼ)し、小さい声で途切れ途切れ話す美月。 俺と、結婚、してくれるのか・・・? まさか、あの時の言葉を本気にしてくれていたとは。 「する、美月と結婚する」 迷わずそう言って、美月をぎゅっと抱き締めた。 美月の髪をいじっていた時任が呆然としているが、関係ない。 PCの前でドレスに合わせるティアラを選んでいた駿河も愕然としてこっちを見ているが、どうでもいい。 美月は俺の嫁だ、わかったか。 「・・・み、美月くん、考え直して・・・その人は王子様なんかじゃない、魔王だよ、危ないよ!」 「美月、喰われるぞ、麗彪さんに頭からがぶって喰われるんだぞ!」 「お前ら俺を何だと思ってやがる」 確かに王子様じゃないが、怪物でもない。 頭からがぶって何だ。 「よしとらさんは、やさしいです」 「優しいふりして、美月くんが油断した隙に・・・押し倒して無理やり襲ってくる魔獣なんですよ!!」 「美月が泣いて嫌がっても最後まで止めない(けだもの)なんだぞ!!」 「だからお前ら俺を何に仕立て上げようとしてやがる!」 それから、美月に魔獣だ(けだもの)だの意味を何とかオブラートに包みつつ、かつ正確に伝えようと必死になる駿河時任と、そうはさせまいとする俺の攻防戦が繰り広げられた。 結果は、真剣に説明を聞こうとする美月を抱き上げ、背中を擦ってやりながらソファに座り、まんまと昼寝をさせた俺に軍配が上がった。

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