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暗闇とライト
【麗彪 side】
「・・・ょしと・・・ぁさ・・・けっこ・・・して・・・ぇ・・・」
俺の腕の中で可愛過ぎる寝言を言う美月 。
お姫様になって、結婚の為の誓いのキスを俺としたいらしい。
「・・・キスしていいのか」
「ダメですよ麗彪さん、警察は呼べないんで片桐 を呼びますよ」
駿河 が真剣な顔で止めてくる。
片桐はうちの掃除屋だ。
・・・俺を片付けられると思ってんのか?
「美月がしたいって言ったんだ」
「寝言です、美月の本心じゃありません」
何故そう断言できる時任 。
だが確かに、眠っている隙にする、というのは本意ではない。
仕方ないので美月の頬っぺたを突ついて我慢する。
ケチャップを取ってやるのに触れた時と変わらず、ふわふわぷにぷにで、まるでマシュマロだ。
・・・うまそう。
「麗彪さん、美月くんは俺が抱っこしてますから、風呂場で氷水にでも沈んできてくださいよ」
「殺す気か」
俺の考えを察したのか、しきりに美月を奪いたがる駿河。
そうはさせるか。
「氷水が嫌なら仕事してください。美月は俺が預かります」
仕事用のPCをソファ前のガラステーブルに置き、今度は時任が美月を奪いに来た。
渡すわけねえだろ。
「いい、このままやる」
美月を膝上で抱きなおし、自分の胸にもたれかけさせながら、PCに手を伸ばす。
これで美月を誰にも渡さずに仕事も出来る。
駿河時任が、ち、とでも言いたげな顔をしたが知った事か。
パチパチとキーを打ちながら、ちらちらと美月の寝顔を覗く。
可愛い。
どんな夢を見ているのか、幸せそうな顔をしている。
そんな表情を見ているだけで満ち足りた気分になるのだから、俺は相当美月に惚れ込んでいるらしい。
あのオークションのステージで、ライトや客の歓声に怯え、震えながら何かを、誰かを探している様に見えた子ども。
探していたのは母親だったのかもしれない。
俺でなかったのは確かだ。
それでもステージに上がり、暗闇からその白い光の中へ手を伸ばした。
肌が焼け爛 れてしまいそうな、強い光の中に。
光に溶け込んで今にも消えてしまいそうだった子どもは、闇から現れた俺の手を掴み、今はこうして膝上で穏やかに寝息を立てている。
「出逢えて良かった」
俺のシャツの胸元を控え目に掴む小さな掌に触れ、穏やかな気持ちで再びキーを打ち始めた。
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