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専門

麗彪(よしとら)side】 やっぱり美月(みつき)は賢い。 一度教えた事は覚えて忘れないらしい。 昨日練習した漢字を既に何も見ないで書いている。 美月と、俺の名前。 丁寧に書く姿を見てにやけるのをやめられない。 今は駿河(するが)時任(ときとう)の名前を練習中。 そんなの雑でいいんだそ、美月。 「ね、麗彪さん、ぼく上手に書けてますか?」 「ああ、上手だ。駿河より」 「駿河さんも、時任さんも、麗彪さんも、ぼくより上手ですよ?」 美月は本当に優しいな。 そういや、普段はPC入力ばかりで、手で書くのは久しぶりだ。 「・・・麗彪さん、美月の名前ばっかり書くのやめてください気持ち悪い」 「うるせえよ」 「美月くん、あれ、言ってあげて」 「ぇと・・・麗彪さんの、へんたい」 「ぐ・・・っ」 美月に言われたら否定できない。 ・・・ああ、俺は美月専門の変態だ。 美月の名前がびっしり書かれた手元の紙を見て、最早(もはや)言い逃れは出来ないと悟った。 「美月、俺が美月専門の変態でも、嫌いにならないでいてくれるか」 「きらいになんてならないですっ!ぜったいならないっ!」 即座に返事をしてくれる美月。 その真剣な表情に心臓をぶち抜かれた俺は、隣の椅子に座っていた美月にがばりと抱き付いた。 「麗彪さん、美月の勉強の邪魔しか出来ないならあっちで仕事でもしててください」 「邪魔なんかして・・・たとしても、俺は美月から離れる気は無い」 美月を抱き上げ、美月が座っていた椅子に自分が座る。 そして膝上に美月を座らせた。 「麗彪さん、せんもんって、なんですか?」 「美月だけって事だ。俺が好きなのは美月だけ」 「ぼく・・・だけ・・・っ」 美月の大きな瞳がみるみる潤んでいく。 え、泣く・・・って事は、嫌って事なのか・・・。 「ぼくもっ・・・ぼくも麗彪さんだけ好きですっ!麗彪さんせんもんですっ!」 そう言って、ぎゅっと抱き付いてきた。 こんなに純粋無垢な天使である美月を(かどわ)かし(たぶら)かす俺は、地獄の最下層で永劫に罰せられるだろう。 しかし、そんな事すらどうでも良く思える程に幸せを感じながら、華奢な身体を抱き締めた。

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