【美月(みつき)side】 「美月、今日も一緒に風呂に入･･･」 「入りますっ！」 麗彪(よしとら)さんのおうちに来て、あったかくて楽しいおふろに、はじめて入った。 あわあわで体あらうの楽しい。 おふろのおゆは、きれいな色でいいにおいがする。 駿河(するが)さんが、毎日ちがう色のおふろにしてくれるから。 おふろの中で、おもちゃであそんでもいいって、麗彪さんが言ってくれたから、いっぱいアヒルさんをうかべてあそんでる。 おふろって、こんなに楽しかったんだ。 「美月は風呂が好きだな」 麗彪さんが、ぼくと麗彪さんのタオルとパジャマをもちながら言った。 ぼくは、アヒルさんを5コもってるから、タオルもパジャマももてなくて･･･。 「ぁの･･･アヒルさんしかもてなくて、ごめんなさい」 「いいよ、可愛いから」 麗彪さんも、アヒルさんかわいいって思ってるんだ！ あ、かわいいのいみ、おしえてもらったんだ。 じぶんより小さかったり、好きって思ったり、たいせつにしたいって思ったり･･･。 かわいいってことばは、いっぱいのいみが入ってるんだって。 「アヒルさん、かわいい、ですよねっ」 「俺が可愛いって言ったのは、アヒル抱えて手一杯になってる美月の事だぞ」 「ぇっ･･･」 麗彪さん、ぼくのこと、いつもかわいいって言ってくれる。 ぼくは、麗彪さんより小さくて、麗彪さんはぼくのことが好きにきまってて、ぼくのこと、たいせつって思ってくれてる･･･の？ ･･･なんだろ、かお、あつい･･･。 どきどき、する･･･。 ぼく、どおしちゃったの･･･？ 「美月？」 「ぁの、麗彪さん･･･ぼく、かおが、あつい･･･」 「ん、熱いってどうし･･･時任(ときとう)っ！カンナ連れてこい！美月が熱出したっ！」 麗彪さんがぼくのおでこに手をくっつけて、それから時任さんに、かんなさん、をよんでってたのんだ。 かんなさんって、だれだろ。 「麗彪さん、かんなさんって、だれですか？」 「うちの医者だ。安心しろ、ちゃんと免許持ってるヤツだから」 いしゃ･･･？ おいしゃ、さん･･･？ えほんで見た、クマのおいしゃさん？ びょうきになったら行く、びょういんの、おいしゃさん？ じゃあ、ぼく、びょうき･･･？ 「っ、ちが、ちがいますっ！びょうきじゃないですっ、だから･･･っ！」 「美月！？大丈夫だ、泣かなくていいから、な？」 麗彪さんが、ぎゅってしてくれた。 ぼく、泣いてる･･･なんで･･･？ あ、そっか、だって、びょうきだったら･･･もし、びょうきだったら、ぼくは･･･。 「･･･っ、ぼく･･･っ、びょ･･･きじゃ･･･な･･･っ」 「ああ、そうだな、俺が大袈裟だった。びっくりさせて悪かった」 「すて･･･な･･･ぃで･･･っ」 「なに！？」 おかあさんは、ぼくがびょうきになったら、ゴミの日にすてるって、言ってた。 びょうきになったら、ぼくは、ゴミの日に、すてられちゃう。 だから、びょうきになっちゃ、だめなんだ。 あたまがいたくても、おなかがいたくても、あつくても、さむくても、びょうきじゃなくしてなきゃ･･･。 「美月、美月がどんな病気になっても、俺は美月を捨てたりしない。必ず治してやる。だから、具合が悪い時はちゃんと言うんだぞ」 麗彪さん、ぼくがびょうきになっても、すてないの･･･？ なおして、くれるの･･･？ 「で、でも･･･びょうきに、なったら、ゴミの日に、すてなきゃ、いけないんじゃ･･･」 「美月は、俺が病気になったらゴミの日に棄てるのか？」 「す、すてませんっ！ぜったい！麗彪さんのこと、すてたりなんかしないっ！！」 「それと一緒だ。俺も、何があっても美月を手放したりしねえ」 ぼく、びょうきになっても、ゴミの日に、すてられないの？ 麗彪さんのとこに、いていいの？ もしかして、ゴミの日にすてるのって･･･。 「おかあさんの、うそなの･･･」 「オカアサン･･･が、言ったのか･･･病気になったら棄てるって言ったのか？･･･んのクソアマまじでブッコ･･･ぃや、なんでもない。そうだ、病気で棄てられるなんて嘘だ。美月は、俺の言ってる事を信じてくれるか？」 よかった、ぼく、すてられない･･･。 ゴミぶくろに、入らなくていいんだ･･･。 おかあさん、これも、うそだったんだね･･･。 ぼくが、ばかだから、だめな子だから、うそついたのかな･･･。 麗彪さん･･･ぼく、麗彪さんが言ったこと、ほんとだって思うよ･･･。 麗彪さんの言ったこと･･･。 「しんじ、ます･･･麗彪さんのこと、しんじます･･･っ」 それから、麗彪さんにもおいっかいぎゅってしてもらって、おとしちゃったアヒルさんもひろって、おふろに入った。 おふろに入る前に、駿河(するが)さんが、いちおうねって言って、たいおんけいでぴってしてくれた。 ねつ、なかった･･･どおして、かお、あつくなっちゃったのかな･･･。 おふろにずっと入ってても、あつくなるから、それとおんなじなの、かな･･･。