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いってらっしゃい
【麗彪 side】
今夜はどうしても外せない食事会がある。
しかも裏の。
当然、俺が行くなら駿河 ・時任 も同行するんだが・・・。
「本当に、すぐ!すぐに帰ってくるから!」
「・・・はぃ」
「不安になったらいつでも電話していいからな!やり方、覚えてるよな?」
「・・・はぃ」
自分が留守番だと知った時から、美月はずっと泣きそうな顔のままだ。
買ってやった携帯を握りしめる小さな手も震えている。
この美月専用携帯の番号は俺しか知らないし、電話帳にも俺の番号しか登録していない。
待ち受けは美月が撮った、とらきちを持った俺の写真。
その画面をじっと見たまま、美月は目の前の俺を見てくれない。
「・・・・・・・・・だああー!無理だっ!美月を独りで置いていくなんてできねえっ!」
「麗彪さん、ワガママ言わないでくださいよ。あんな所に美月くんを連れて行けないでしょう?」
駿河の言う通り、あんな場所に美月を連れては行けない。
美月に少しでも危険が及ぶ様な環境は避けるべきだ。
「わかってるよ!わかってる・・・けど、なあ、美月、頼むからこっち見てくれよ。頼むから俺の事を嫌いにならないでくれ」
右手で美月の頬に触れる。
あーやべーずっと撫でていたい・・・。
「・・・きらぃ、なんて・・・なりません・・・」
「良かった・・・」
「ぁの・・・麗彪さん、ぼくのこと・・・きらいに、ならない・・・?」
「なるわけない。俺が美月なしじゃ生きられないの知ってるだろ?」
そうだ、俺は美月専門の変態で、美月がいなきゃ最早 生きていけない。
つまり、美月を独りで留守番させんのは、美月を守るためで、尚且つ俺が生きていくために必要なんだ。
俺は・・・自分の欲のために、この純粋無垢な天使を部屋に閉じ込めて、俺以外の全てから隠したい。
最低だ・・・。
「ぼ、ぼく、ちゃんとおるすばん、してますからっ、だから・・・麗彪さん、しんじゃ、いやです・・・っ」
どろどろの闇の中で生きてる俺に、死ぬなと言ってくれるのか。
俺なんかのために、俺の部屋で、待っていてくれるのか。
「美月・・・大好きだ。留守番してる間は、何しててもいいからな。眠かったら先に寝てていいから・・・」
「ぁの、あのね、麗彪さん・・・ぼく、その・・・」
「ん?」
「・・・ぉ、おるすばん、がんばるので・・・だから、その・・・麗彪さんの、およう服、かして、くださぃ・・・」
「服?」
大きな瞳をうるうるさせながら、上目使いで、俺の服を貸して欲しいと言う天使。
どれでも好きな服をやるに決まってる。
「どれがいい?」
「そ・・・その、きてるの・・・」
小さい声で言いながら、小さな手が俺の着てるシャツを控え目に掴んだ。
え、今着てるやつでいいのか?
「これ、着てるやつがいいのか?同じので、洗ってあるのもあ・・・」
「ゃっ、これ、これがいいですっ・・・麗彪さんがきてたのが・・・いぃ・・・です・・・」
美月、耳まで紅 くして、俺を誘ってんのか。
あーもー、集会とかどーでも良くなってきた。
このまま美月をベッドに・・・。
「麗彪さん、さっさと脱いで美月にシャツ渡してください。で、こっち着てください。それ以上美月に触らないでください」
「うるせえ時任!美月が俺を誘ってくれてんだぞ!?くだらねえ集会になんぞ行ってられるか!」
「誘ってなんかいませんよ!脱げって言ってるだけでしょう!いい加減出ないと間に合わないんで美月くんにシャツ渡したら上裸でいいから車乗ってください!」
ぎゃーぎゃー騒ぐ駿河・時任に促され、シャツを脱いで美月に渡す。
渡したシャツをぎゅっと抱き締める美月。
だめだ、俺の理性が限界だ・・・!
何時までも美月の手を放さない俺を駿河・時任が担ぎ上げ、地下駐車場直通の専用エレベーターに乗せる。
「美月、美月っ!すぐ帰るからな!」
「麗彪さん・・・ぃ、いってらっしゃい・・・っ」
「美月いぃ───っ!!」
たかだか3~4時間の我慢だ、と思っていた。
だが、そのたかだか3~4時間の間俺は気も漫 ろで、何人か無意味に殴った様な気もするし、親父の話を全く聞いてなかったんだか聞いてたのに忘れたんだか、まったく覚えていなかった。
帰りの車で駿河の小言を聞かされながら、俺のシャツを抱き締めた美月の事ばかり考えていた。
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