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プールに行きましょう

麗彪(よしとら)side】 「プールに行きましょう」 最近暑くなってきたなと思っていたら、朝食中に突然やって来た片桐(かたぎり)が言った。 ヤツにしては珍しく、ジーンズにTシャツというラフな格好で。 「ぷーるって、なんですか?」 美月(みつき)はやっぱり知らなかったか。 「大きいお風呂みたいな、でもお湯じゃなくてお水が張ってあるんですよ〜。泳いで遊ぶ所です」 駿河(するが)のざっくりした説明でも、遊ぶという言葉に喜ぶ美月。 美月に似合う水着を買いに行かねえとな。 「水着や浮き輪は雅彪(まさとら)さんが用意してますから、このまま行きましょう」 何だと・・・勝手に美月の水着を選びやがったのかクソ親父殿は・・・。 まあいい、明日また俺が美月の水着を買い直せば・・・。 片桐が乗って来た車に乗り込み、ヤツの運転で現地へ向かう。 助手席に時任(ときとう)、2列目に俺と美月、3列目が駿河とカンナだ。 何でカンナまで・・・と思ったが、美月が慣れている医者も連れて来いと親父に言われたらしい。 そうだった、こいつ医者だった。 「ぼく、およぐの、できるかな・・・」 「一緒に練習しような。泳がなくても浮き輪に掴まってれば俺が引っ張ってやる」 「うきわって?」 美月に説明してやりながら、新しい事を知ったりやったりすると、幼さが戻って可愛いなと思う。 勉強が好きで、辞書を引くのも好きで、一度覚えた事は忘れない美月。 どんどん賢くなって、年相応になってきて。 このまま俺の部屋に閉じ込めておいても、美月は閉じ込められていてくれるんだろうか。 目を離した隙に、自分で部屋を出て行ってしまうんじゃないか。 それが恐くて離れられず、仕事で部屋を空ける時は必ず誰か側に居させる様にしている。 いつか、美月の細い首に赤い首輪をして、鎖で繋いでしまうんじゃないか。 ベッドに縛り付けて、俺以外見ない様に・・・。 「麗彪さん、だいじょぶ?」 「ん、美月がいれば大丈夫だ」 俺の不安を感じ取って、俺の頬に手を伸ばしてくれる美月。 こんな(けだもの)に迷わず触れてくれる、可愛い愛しい綺麗な美月。 絶対に、逃してやれない。 「ごめんな」 「いいよ、ぼく、麗彪さんがいちばん大切だから。あやまらなくていいよ。ぷーるこわい?帰る?」 ああ、何でそんな俺を甘やかすんだ。 欠片も残さず喰イ尽クシタイ。 「なあに、具合悪いの?着いたら診てあげるから・・・」 「美月が好き過ぎて自分が抑えられるか不安なだけだ」 「あ、それは管轄外だわ」 カンナに呆れられ、それでも心配だからと診察を頼む美月に、キスという万病に効く薬を処方してもらい、プールに到着した。

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