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わさびとちゃわんむし

美月(みつき)side】 今日は、麗彪(よしとら)さんの実家に遊びに来た。 麗彪さんと時任(ときとう)さんはお仕事、駿河(するが)さんは夏休みでお出かけしてて、片桐(かたぎり)さんとカンナさんもいそがしいんだって。 ひとりでおるすばんするのかなって思ったけど、麗彪さんが明日まで帰ってこられないから、ぱぱがおむかえに来てくれた。 「お帰りなさい親父、お嬢!」 「おう」 「ぇっと、ただいま!」 ここは麗彪さんの実家だけど、ぱぱがここもぼくのおうちだよって言ってくれたから、ただいまって言う。 ここのみんなは、ぼくのこと、おじょうって呼ぶ。 ぼく、女の子じゃないのにな。 「みっちゃん、お昼はお寿司にしたよ。大好きな茶碗蒸しもあるからね。ぱぱの分も食べるかい?」 「ちゃわんむし好き!でも、ぱぱの分まで食べちゃっていいの?」 ぼく、おすしも好き。 サーモンと、ネギトロぐんかんと、たまごと、エビと・・・。 わさびも、ちょっと付けて食べられる。 初めてわさび付けて食べた時はびっくりした。 あと、ちゃわんむしのぎんなんも好き。 「いいんだよ。食べたら庭で犬たちと遊ぶかい?」 「うんっ!」 こっちのおうちは、大きな犬がいっぱいいる。 ドーベルマンが8匹と、ジャーマンシェパードが3匹。 最初はすごくこわいなって思ったけど、麗彪さんとぱぱといっしょになでさせてもらって、仲よくなった。 「おーき!あそぼっ!」 桜鬼(おうき)はいちばん大きいジャーマンシェパード。 ぼくがお庭に行くと、ずっとそばにいてくれる。 「桜鬼、みっちゃんをしっかり護るんだぞ」 ぱぱが話しかけると、うぉんってお返事する。 桜鬼は天才! 「お嬢、暑いですから帽子をかぶってください」 「ありがとうございます、新名(にいな)さん」 新名さんは、ぱぱのお仕事をお手伝いしてる人。 おむかえの時も、車を運転してくれてた。 お正月に初めて会ってお話しした時、キツネさんににてるなって思ってた。 じーっと見てたら「俺が恐いですか?」って聞かれて、キツネさんににてますねって言ったら、にこーって笑ってくれて、仲よくなったんだ。 新名さんもとっても優しい。 「みっちゃーん、そんなに走ったら転んじまうよ」 「だいじょーぶー!」 桜鬼と、ドーベルマンのロルフとリヒトと、追いかけっこ。 みんな走るのすっごく速い。 桜鬼はぼくの後ろからついてきて、ロルフとリヒトはぼくが追いつくの、たまにふり返って待っててくれる。 「つかまえたーあ!」 リヒトをつかまえて、ロルフがぼくに乗っかってきて、ごろんって地面に寝っころがっちゃった。 桜鬼がロルフをどかしてくれて、リヒトが顔をぺろぺろしてきて、桜鬼とロルフもぺろぺろしてくれて・・・。 「お嬢、大丈夫ですか?」 「あはっ、だいじょ、ふふっ、あははっ」 新名さんに助けてもらったけど、泥とヨダレだらけになっちゃったぼくは、お風呂に入ることになった。 お風呂は麗彪さんとって約束してるから、今日はひとりで入らないといけない。 「ぱぱと一緒に入るかい?」 「んー、約束やぶったら、麗彪さんが泣いちゃうから・・・麗彪さんが帰ってきたら、ぱぱもいっしょに入ろ?」 こっちのおうちのお風呂はすっごく大きくて、木でできてる。 麗彪さんと入った時は大丈夫だったのに、ひとりだとちょっとこわい。 自分で体と頭洗うの、ひさしぶりだな。 あわを全部流してから、大きいお風呂にひとりでつかる。 さみしい・・・。 麗彪さん、明日は何時におむかえに来てくれるかな・・・。
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