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指輪と我慢

麗彪(よしとら)side】 最近、美月(みつき)の様子がおかしい。 何か隠している・・・たぶん。 なんとなくだが、イライラしているんじゃないかと思う。 聞いても「なんでもない」と返されてしまい、誤魔化される。 よく(うつむ)いている様にも見えるし。 美月が言わない・・・言いたくないなら、自分から言い出すまで待つ事にしているが、笑顔が減った上に泣きそうな顔をしている事も増えた気がして、限界だと思った。 「なあ美月」 「ん、なあに?」 「そろそろ話してくれないか?」 「・・・・・・」 ごめんな、お前が心配なんだ。 「・・・ごめ・・・なさ・・・っ」 「美月が悪かった事なんて一度もないだろ。今回もきっと悪くない。だから、話してくれるか?」 俯いて泣き出してしまった美月を抱き上げ、背中を摩ってやりながらあやす。 自分でも美月のここ最近の様子を振り返るが、正直全く思い当たる節がない。 なんで俺の天使が泣かなきゃならないんだ。 「・・・っふ、・・・ぃた・・・の・・・っ」 「痛い?どこだ?頭?お腹?」 美月の体調不良に気付かなかった、だと? 悪いのは俺じゃないか。 くそ、すぐにカンナを呼んで・・・。 「・・・ぅ、・・・ゆび・・・ゎ・・・」 「・・・指輪?」 まさか・・・そうか、それで俯いてるように見えたのか。 手元を・・・指輪をした左手を気にしてたんだな。 「美月、大丈夫だから、手ぇ見せてくれ」 おずおずと差し出された左手。 やっぱり、薬指が赤くなっている。 「キツくなって、抜けなくなっちゃったんだな」 「・・・ん、・・・でも、はずすの、やだぁ・・・っ」 「このままじゃ痛いだろ。一回外そう、な?」 話を聞いていた時任(ときとう)が、ハンドクリームを持って来て、慎重に指輪を外してやった。 少しずつ、健康的に肉が付いてきたから、指輪のサイズが合わなくなったんだ。 ああ、指輪の痕が痛々しい。 「ごめんな美月、すぐ気付いてやれなくて。我慢させてごめん」 「ううん、指輪、はずすのやで、だまってて・・・ごめんなさぃ・・・」 去年のクリスマスに買った、俺とお揃いの指輪。 美月はたまに手を(かざ)しては、指輪に埋め込まれたダイヤに光が反射するのを眺めてた。 すげー気に入って、大事にしてくれてたんだよな。 だからこそ、体型変化に伴う弊害に配慮すべきだった。 服は駿河(するが)が勝手に新調していたが、指輪もキツくなるって事を失念していた俺が完全に悪い。 「麗彪さん、その指輪、どおするの・・・?」 「美月の指に合うサイズに直してもらう。ちゃんと戻ってくるから、心配しなくていいぞ」 「よかったぁ・・・」 新しいのに買い替えてもいいんだが、美月はこの指輪がいいみたいだからな。 俺が(おく)った、俺とお揃いの指輪だから、ずっと身に付けて大事にしてくれるのは嬉しい。 ・・・でも。 「あのさ、美月。もう痛いのとか、嫌な事とか、絶対に我慢しないでくれ。ちゃんと、すぐ俺に話してくれ。美月の大事な物、取り上げたりしないから。な?」 「・・・ぅん、わかった。ありがと、麗彪さん」 よしよし、いい子だ。 あ、そう言えば。 俺の膝を跨いで座る美月の、左内腿。 ちょんと触れながら聞いてみる。 「なあ美月、ここも痛いんじゃないか?我慢してない?」 加減したとはいえ、指輪の痕より酷い噛み痕が、ここにあるのを俺は知っている。 「んー?ふふ、これはいーのっ」 なんだこの可愛い天使は。 そんな嬉しそうにするなよ、また噛んでやりたくなるだろ・・・。

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